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光の輪の中の天使~My Godness番外編~

第1章 出逢いはある日、突然に

 それにしても、悠理は子どもの扱いが上手い。というよりは手慣れているといった方が良いだろうか。あれから四年の年月が流れている。実里が新しい道を歩み始めたように、彼もまた全く違う人生を誰かと歩いていても不思議はない。
 たとえ不幸な事故とはいえ、実里が悠理の妻の生命を奪ったことは消えない事実なのだ。その立場から考えれば、悠理が早妃以外の誰か別の女性とめぐり逢えたことは歓ぶべきことだ。更に、この子どもの扱いからして、既に子どもも生まれているのかもしれない。それもまた、実里は歓んでも良いはずだった。
 実里が早妃を撥ねた当時、早妃は悠理の子どもを妊娠していたのだから。彼が今度こそ元気な子どもをその腕に抱いたというのなら、これで少しは良心の呵責に悩まされることもなくなるはず―だった。
 なのに、何故か彼の側に誰かがいるところを想像すると、心が不用意に波立ってしまうのは何故だろう?
 実里は自分の心をもてあましかね、戸惑い気味に悠理を見上げた。
 そのときだった。
「実里!」
 柊路の声が静寂を破り、実里はホッとした。今はもう、あれこれと昔のことを考えたくはない。今、実里は柊路の妻であり、実は悠理の子である理乃は柊路の娘として育っている。確かに日々の暮らしは狭いコーポラス暮らしの慎ましやかなものだが、実里は幸せだ。
 誠実な夫と満ち足りた家庭。これ以上、何を望むというのだろう。
「あっ、パパだ」
 理乃が飛びはねながら、柊路に向かって駆けてゆく。まるでゴムまりが弾むように一目散に走っていった。その小さな背中を見つめる悠理のまなざしは遠かった。
 それは、どんなに手を伸ばしても、後一歩のところで永遠に届かない宝物を見つめるような、はるかな瞳のように思える。
「ああ、あんなに全速力で走ったら、また転ぶのにな。よほど、柊が好きなんだ」
 呟いた悠理の口調にどこかしら複雑な響きがこもっていたと感じてしまったのは、実里の考え過ぎだったろうか。
 柊路は近づいてきた理乃を抱き上げ、高い高いをするように天に向かって持ち上げた。「パパ、お髭が痛いよぉ」
 ほおずりをする柊路に向かって、理乃が顔をしかめる。

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