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光の輪の中の天使~My Godness番外編~

第2章 流れた歳月

 だが、自分がこの男に何を言いたいのかさえ判らない。いや、話したくないとか、話すことがないというわけではなく、話さなければいけないこと、訊いておかなければいけないことがたくさんありすぎるような気がして、それらを上手く一つの言葉として纏められないのだ。
 二人の間には、終始、ぎごちない空気が流れていた。気まずい沈黙と呼び変えても良いだろう。それはレイプの被害者と加害者という二人の関係というよりは、むしろ、流れた歳月の長さが原因なのかもしれない。
「ママ~、見て。砂のお山を作ったの」
 理乃が少し離れた砂場から歓声を上げて、手を振っている。
「理乃ったら、さっきまで泣いてたのに、もう笑ってる」
 つい眼前の男を意識せずに零れ落ちた呟きに、悠理が眼を細める。
「あの子の名前、理乃っていうの?」
 実里はハッとして悠理を見た。
「どうして、あの子の名前なんて訊くんですか?」
 言い終わらない中に、嫌な予感がむくむくと湧いてきた。
 もしや、この男は四年前のように私たちをつけ回して、理乃を奪い返そうとして?
 悠理が軽く眼をみはり、心外だと言わんばかりに首を振った。
「おいおい、人を勝手に誘拐犯に仕立て上げないでくれよ。俺は何もあんたらをつけてここに来たわけじゃない。本当に偶然だ」
 神様が俺を哀れんで、ほんの少し夢を見させてくれたのかな。
 悠理は訳のわからないことを呟くように言った。
 次の瞬間、実里は自分でも驚くようなことを口にしていた。
「あなたの方は、今はどうしているの?」
 予期せぬ質問だったのか、悠理の方も眼を丸くしている。
「俺? 俺は今、この町に住んでる」
「この町に住んでいる?」
「ああ」
 また、会話が途切れ、沈黙が落ちた。
 けれど、今度の静寂は先刻のときよりは少しだけ気詰まりさが少なくなっている。
「子どもの扱いが上手なようだけど、あなたもお子さんがいるの?」
 言ってしまってから、実里は穴があれば入りたい心境になった。これでは、実里が彼の近況に関心があって、今の暮らしについて訊きだそうとしているみたいではないか!

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