淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
哀しい誤解
春泉は、眼の前のオクタンには判らないように、そっと息を吐き出す。
オクタンはといえば、困ったような表情で春泉とその膝の上の猫を交互に見つめるばかりだ。
「申し訳ございません、若奥さま」
ひたすら恐縮する乳母に対して、春泉は微笑んだ。
「何故、オクタンが謝るの? 別に、オクタンが悪いわけではないのに」
「でも、元々、こうなってしまったのは、私の監督不行届が原因でございますから」
春泉は笑った。
「それに、猫にしろ人間にしろ、赤ちゃんが生まれるというのは、おめでたいことだわ」
「はあ、まあ、そう言われれば、そうとも言えますが」
と、オクタンは春泉の言葉にも今一つ、得心がゆかないようで、何とも曖昧な笑みで応えた。
「もう、本当にどうしようもない猫ですねえ」
オクタンの嘆息に、春泉は笑顔で頷く。
「毎日、いそいそと出かけていたのには、実は、こういう理由があったというわけね」
昨夜、春泉とオクタンの間では、ちょっとした騒動が持ち上がった。とはいえ、何のことはない、昼過ぎにふらりといなくなった飼い猫小虎が夕刻、新しい家族を引き連れて帰ってきたのだ。つまり、小虎はめでたく奥さんを迎えたことになる。
小虎の妻となったのは、真っ白な毛並みの美しい猫であった。真っ白といっても、新雪の鮮やかな白ではなくて、牛の乳のような、やわらかな乳白色だ。よくよく見ると、背中に数本、うっすらと灰色の筋が入っており、そこが特徴的だ。なかなかの美人といえるだろう。
「小虎もなかなかやるわね。こんなきれいな奥さんを連れてくるなんて」
春泉が面白そうに言うと、腕の中の小虎が〝僕の奥さん、なかなかでしょ〟というように、得意げにニャと鳴いた。
春泉はそっと猫を床に降ろす。こちらを見上げている白猫の隣に降ろしてやると、二匹の猫の夫婦はこれ以上はないというくらい似合いに見える。
「お前の名は―」
春泉は小首を傾げた。
春泉は、眼の前のオクタンには判らないように、そっと息を吐き出す。
オクタンはといえば、困ったような表情で春泉とその膝の上の猫を交互に見つめるばかりだ。
「申し訳ございません、若奥さま」
ひたすら恐縮する乳母に対して、春泉は微笑んだ。
「何故、オクタンが謝るの? 別に、オクタンが悪いわけではないのに」
「でも、元々、こうなってしまったのは、私の監督不行届が原因でございますから」
春泉は笑った。
「それに、猫にしろ人間にしろ、赤ちゃんが生まれるというのは、おめでたいことだわ」
「はあ、まあ、そう言われれば、そうとも言えますが」
と、オクタンは春泉の言葉にも今一つ、得心がゆかないようで、何とも曖昧な笑みで応えた。
「もう、本当にどうしようもない猫ですねえ」
オクタンの嘆息に、春泉は笑顔で頷く。
「毎日、いそいそと出かけていたのには、実は、こういう理由があったというわけね」
昨夜、春泉とオクタンの間では、ちょっとした騒動が持ち上がった。とはいえ、何のことはない、昼過ぎにふらりといなくなった飼い猫小虎が夕刻、新しい家族を引き連れて帰ってきたのだ。つまり、小虎はめでたく奥さんを迎えたことになる。
小虎の妻となったのは、真っ白な毛並みの美しい猫であった。真っ白といっても、新雪の鮮やかな白ではなくて、牛の乳のような、やわらかな乳白色だ。よくよく見ると、背中に数本、うっすらと灰色の筋が入っており、そこが特徴的だ。なかなかの美人といえるだろう。
「小虎もなかなかやるわね。こんなきれいな奥さんを連れてくるなんて」
春泉が面白そうに言うと、腕の中の小虎が〝僕の奥さん、なかなかでしょ〟というように、得意げにニャと鳴いた。
春泉はそっと猫を床に降ろす。こちらを見上げている白猫の隣に降ろしてやると、二匹の猫の夫婦はこれ以上はないというくらい似合いに見える。
「お前の名は―」
春泉は小首を傾げた。