淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
なかなか良い名前が思い浮かばない。愛猫の愛妻なのだから、ここは一つ素晴らしい名前をつけてやらなくてはと張り切ってはいるのだが、意気込めば意気込むほど、余計に迷ってしまう。
「若奥さま、ちょっとよろしいですか?」
思案顔の春泉に、オクタンが遠慮がちに言った。
「なあに?」
あどけないともいえる笑みを浮かべたオクタンがハッと胸をつかれた表情で口ごもった。
「い、いえ。その白猫の名前なのですが、やはり背中にわずかばかり縞々があるので、白虎はどうかと」
「白虎(フェンチェ)、うーん、どうかしら。ねえ、お前たちはどう思う?」
白猫の方は慎ましい性格なのか、つぶらな瞳で春泉を見つめているだけだ。隣の小虎がプイと横を向いた。ニャアともスンとも言わないところを見ると、気に入らないのだろう。
―僕の大切な奥さんに、そんなありきたりの名前を安易につけちゃ駄目だ。
そんな彼の声が聞こえてきたようで、春泉は軽く息をついた。
「本人はともかく、どうやら、ご主人の小虎はあまり乗り気ではないみたいね」
と、オクタンは小虎に向かって〝メッ〟と怖い顔をして見せた。
「勝手に連れ合いを連れてきたりして、このお屋敷を追い出されないだけでも、ありがたいと思いなさい」
これは、あながち小虎への脅し(?)ではない。皇家の夫人芙蓉は大の猫嫌いで通っている。春泉の輿入れの時、小虎一匹を連れてくるだけでも物議を醸したのに、その上、また猫が増えるとなれば、どういう反応が返ってくるかは知れている。
「とにかく、旦那さまには、猫の数が増えることはお話ししておかなくては」
春泉が言うと、オクタンもしたり顔で頷いた。
「それにしても、もう二、三ヵ月もしない中に、小虎に初めての子どもが生まれるわけですから、若奥さま、一挙に猫の数が増えます。二匹どころじゃございませんよ」
「そうねえ。確かに、めでたいことではあるけれど、お義母さまのお怒りをどうやって鎮めるかを考えただけで、頭が痛くなりそうだわ。何匹生まれるか判らないけど、全部手許で飼うわけにはゆかないもの」
「若奥さま、ちょっとよろしいですか?」
思案顔の春泉に、オクタンが遠慮がちに言った。
「なあに?」
あどけないともいえる笑みを浮かべたオクタンがハッと胸をつかれた表情で口ごもった。
「い、いえ。その白猫の名前なのですが、やはり背中にわずかばかり縞々があるので、白虎はどうかと」
「白虎(フェンチェ)、うーん、どうかしら。ねえ、お前たちはどう思う?」
白猫の方は慎ましい性格なのか、つぶらな瞳で春泉を見つめているだけだ。隣の小虎がプイと横を向いた。ニャアともスンとも言わないところを見ると、気に入らないのだろう。
―僕の大切な奥さんに、そんなありきたりの名前を安易につけちゃ駄目だ。
そんな彼の声が聞こえてきたようで、春泉は軽く息をついた。
「本人はともかく、どうやら、ご主人の小虎はあまり乗り気ではないみたいね」
と、オクタンは小虎に向かって〝メッ〟と怖い顔をして見せた。
「勝手に連れ合いを連れてきたりして、このお屋敷を追い出されないだけでも、ありがたいと思いなさい」
これは、あながち小虎への脅し(?)ではない。皇家の夫人芙蓉は大の猫嫌いで通っている。春泉の輿入れの時、小虎一匹を連れてくるだけでも物議を醸したのに、その上、また猫が増えるとなれば、どういう反応が返ってくるかは知れている。
「とにかく、旦那さまには、猫の数が増えることはお話ししておかなくては」
春泉が言うと、オクタンもしたり顔で頷いた。
「それにしても、もう二、三ヵ月もしない中に、小虎に初めての子どもが生まれるわけですから、若奥さま、一挙に猫の数が増えます。二匹どころじゃございませんよ」
「そうねえ。確かに、めでたいことではあるけれど、お義母さまのお怒りをどうやって鎮めるかを考えただけで、頭が痛くなりそうだわ。何匹生まれるか判らないけど、全部手許で飼うわけにはゆかないもの」