淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第17章 月夜の密会
もう二度と、家族を困らせるような真似はせず、行いを慎むと心から誓えば、彼等も鈴寧を許すのではないだろうか。鈴寧は一度、死んだ。だから、死んで、もう一度生まれ変わったつもりで、心を改めて生き直してみてはと勧めるつもりだった。
果たして鈴寧が聞き入れてくれるかどうか自信はなかったけれど、やってみるだけの価値はあると思った。最初、秀龍はかなり渋っていたが、春泉が泣きそうな顔で頼むと、結局、嫌そうに認めてくれた。屈強な家僕と小虎を連れてゆくという条件付きで。
―全く、そなたは、どこまでお人好しなんだ。
そう言いながら、春泉を強く抱きしめた。
もっとも、家僕は門の傍で待たせているのだから(むろん、秀龍は屋敷のすぐ傍まで家僕を春泉が連れてゆくものだと信じて許可した)、実際の護衛は小虎一匹ということになる。
廃屋の手前まで来た時、春泉は深呼吸した。騒ぐ鼓動を鎮めるように、胸に手のひらを乗せる。
コホンと小さく咳払いをし、来訪の意をそれとなく伝えてから、思い切って扉を開けた。
だが、その瞬間、春泉は茫然とした。
打ち捨てられた家の中は、もぬけの殻になっていた。布団もなければ、横たわっていたはずの艶めかしい死体もない。
春泉はハッと息を吸い込み、急いで室内をに入り、注意深く壁や床を検めた。乱雑ではあるが拭った形跡があるものの、そこここに飛散した血飛沫が転々と残っている。
春泉は惚けたように、その場に座り込んだ。
死体は始末されたのだ。恐らく、鈴寧と情人の密会が家人の知るところとなったに相違ない。
春泉の来訪は遅すぎたのだ。春泉は、ひとりの女人を救えなかった後悔に打ちひしがれながら、ひっそりと涙を流した。
ニャンと、小虎が春泉の膝に前脚をかけて啼く。
―春泉のせいじゃないさ。
春泉には、老いた猫が慰めてくれているような気がしてならず、小虎を抱き上げて、その温かな身体に頬ずりしながら泣いた。
果たして鈴寧が聞き入れてくれるかどうか自信はなかったけれど、やってみるだけの価値はあると思った。最初、秀龍はかなり渋っていたが、春泉が泣きそうな顔で頼むと、結局、嫌そうに認めてくれた。屈強な家僕と小虎を連れてゆくという条件付きで。
―全く、そなたは、どこまでお人好しなんだ。
そう言いながら、春泉を強く抱きしめた。
もっとも、家僕は門の傍で待たせているのだから(むろん、秀龍は屋敷のすぐ傍まで家僕を春泉が連れてゆくものだと信じて許可した)、実際の護衛は小虎一匹ということになる。
廃屋の手前まで来た時、春泉は深呼吸した。騒ぐ鼓動を鎮めるように、胸に手のひらを乗せる。
コホンと小さく咳払いをし、来訪の意をそれとなく伝えてから、思い切って扉を開けた。
だが、その瞬間、春泉は茫然とした。
打ち捨てられた家の中は、もぬけの殻になっていた。布団もなければ、横たわっていたはずの艶めかしい死体もない。
春泉はハッと息を吸い込み、急いで室内をに入り、注意深く壁や床を検めた。乱雑ではあるが拭った形跡があるものの、そこここに飛散した血飛沫が転々と残っている。
春泉は惚けたように、その場に座り込んだ。
死体は始末されたのだ。恐らく、鈴寧と情人の密会が家人の知るところとなったに相違ない。
春泉の来訪は遅すぎたのだ。春泉は、ひとりの女人を救えなかった後悔に打ちひしがれながら、ひっそりと涙を流した。
ニャンと、小虎が春泉の膝に前脚をかけて啼く。
―春泉のせいじゃないさ。
春泉には、老いた猫が慰めてくれているような気がしてならず、小虎を抱き上げて、その温かな身体に頬ずりしながら泣いた。