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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

 むろん、一日に何度かは顔を合わせることはあったものの、母が自分を見る眼はいつも冷めていたように思う。
 自分が何故、母に嫌われるのか。幼い頃には判らなかったけれど、長ずるにつれ、何となく理解はできるようになった。
 春泉の顔は父にそっくりだ。恐らく母は、憎んでいる良人に生き写しの娘を見るのに耐えられなかったのだろう。
 両親から顧みられたい、母に愛されたい。そう願った日もあった。しかし、今はそんなことは土台無理な話なのだととっくに諦めている。仲睦まじい両親がいて、愛情豊かに注がれる子どもがいる―、それは所詮、他所の家庭の話でしかないし、春泉にとっては永劫に叶わない理想の世界であった。
 度の過ぎた女道楽さえなければ、春泉はもう少し父を好きになれただろうにと、いつも残念に思っていた。
 それはともかく、やっと戻ってきた仔猫は、あれから姿を消すことはなかった。あのときもさんざん春泉を心配させて、当の猫は実に悠々とした表情(?)で帰ってきた。
―駄目じゃないの、黙っていなくなったりしたら。
 頭を指で軽く叩いて叱ると、猫はどこまで判っているのか、つぶらな瞳をくるくると動かして春泉を見上げた。あまりに愛らしい仕種に、春泉はもうそれ以上、小虎を怒ることはできなくなってしまった。
 とはいうものの、やはり、春泉としては不安でならない。また、いつ小虎がいなくなってしまうか、気が気ではない。
 乳母以外、心を開ける相手がいない春泉にとって、小虎はもうかけがえのない〝家族〟なのだ。
 小虎はすぐに見つかった。こでまりの樹の下に座り、悠然と毛繕いを始めたのである。
「もうっ。本当に気紛れやさんね」
 口では怒りながらも、春泉が仔猫を見つめるまなざしは優しい。二ヵ月前、春泉の飼い猫となった当時はまだ小さかった小虎も今では、かなり大きくなっている。日に三度の〝〟小虎さまのための特別食〟(と、女中たちは呼んでいる)をペロリと平らげているお陰か、丸々と肥え太っている。
 仔猫のうちから、こんなに太っていても良いのかしら? と、春泉が真剣に悩んでしまうほどの体軀の良さを誇っている。
 春泉が何度か呼ぶと、小虎は〝仕様がないな〟とでも言いたげな顔で、むっくりと立ち上がった。

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