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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

 その時。母の房の扉が音もなく開き、春泉は弾かれたように面を上げた。  
 視線と視線が出逢った刹那、春泉は〝あ〟と小さく声を上げた。
 たった今、この男、光王のことを考えていたばかりだったのだ―。
「あなたは―」
 言葉が続かなかった。何故、この男がここにいるのだろうという疑問よりも、この男に伝えたかったことが山ほどもあるような気がしたからだ。だが、いざ現実に再会してみると、その降り積もった想いを伝えるのに適当な言葉は何一つないように思える。
 光王は今日も憎らしいほど綺麗だ。いつもは茶色のはずの髪が春の陽に金色に輝いて見える。
 後ろに垂らして緩く束ねた髪が初めて逢ったときと比べて、かなり乱れている。まるで急いで括り直したようだ。気のせいだろうか?
 春泉の思惑など知らぬげに、男は真っすぐな視線をこちらに向けている。
 光王に見つめられ、頬が熱くなる。
「見違えたな。やっぱり、俺の言うとおりだったろ」
 満足げに見つめられ、彼女は更にカッと血が上った。耳まで真っ赤になり、自分でも何をどうして良いのか判らない。
「な、なに? いきなりそんなことを言われても、何のことだか判らないわ」
 春泉がぶっきらぼうにやり返すと、光王は声を立てて笑った。
―へえ、こんな表情(かお)もするのだ。
 光王の笑顔は随分と無防備で幼かった。平素、彼が貼り付けている、美しくもどこか冷めた微笑とは全然違う・
 むろん、いつもより、こちらの方が良いだなどとは口が裂けても言わない。
「どうした、俺の顔に何かついてるか?」
 初対面のときとは随分と印象が違う。最初の彼は年相応の屈託なさを時折覗かせながらも、全体的にどこか皮肉げな、世の中を斜(はす)に見ているような雰囲気があった。
「いや、それとも、俺があまりに良い男すぎるから、見蕩(みと)れているのか?」
 思わせぶりな流し目をよこし、軽く片眼を瞑って見せる。
「なっ」
 春泉は呆れて物も言えなくなった。やはり、何もどこも変わっていない。人を喰った物言いといい、呆れるほど自信過剰なところもそのままだ!

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