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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第5章 意外な再会

「良い加減に―」
 そのお喋りな口を閉じなさい。そう言いたかったのだが、それは光王の次の言葉に遮られた。
「ははん、さては図星だな。ほれほれ、可愛いほっぺたが熟した林檎、いや、熟れ過ぎた柿みたいになってるぞ」
 そう言い、光王はグイと身を乗り出してきた。
「俺が言ってるのは化粧のことだよ、化粧。ほら、初めて逢った時、教えてやっただろ。もう少し化粧を濃くしてみろって。お前が俺の言ったとおりにしてるんだってのは、すぐに判ったよ。お前は化粧映えする顔立ちなんだから、きっちりと化粧した方が良いんだ」
 〝紅も―〟、光王は小首を傾げて彼女を見つめ、幾度も頷いた。
「俺の言ったとおり、差してないんだな」
 ふいに唇に伸びてこようとした光王の手から、春泉は飛び退(すさ)った。
「私に気安く触らないで」
「フフン。そんなにつんけんと突っかかってくるところが怪しい。もしかして、お前は俺に気があるんじゃないの?」
「何ですって?」
 衝動的に片手を上げた刹那、手首を光王に掴まれる。
「おっと、また叩かれちまっちゃあ、かなわねえからな」
 その瞬間だけ、周囲の刻の流れが止まった。
 そのまま見つめ合い、視線と視線が複雑に絡み合い、離れる。
 沈黙とあまりの近さに耐えかね、春泉は眼を逸らそうと試みた。
「手、放して」
「放さないと言ったら、どうする?」
 声が近い。先刻までと彼の声や雰囲気が違うように思えるのは、思い過ごしだろうか。何だか声が随分と艶めいているというか、湿っているような気がする。
 互いの呼吸すら聞こえてくるほど手前に、光王の整った面が迫っていた。
 この距離はあまりにも近すぎる―。
 息を呑んだ春泉に向かって、光王が更に近づいてくる。
 口づけされる―?
 覚悟して眼を閉じた刹那、すんでのところで光王の顔が遠のいた。
「な―んてな、冗談だ。嫁入り前の箱入り娘にうっかりと手をつけちまったら、後々、面倒だ」

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