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第2章 彼女なりの安穏とした日々

 永井はその地区にいることすら不思議に思える、豪気で面倒見のいい男だった。

 無精ひげとオールバックに撫でつけられた髪のせいでそのときには30代のように見えてしまったが、5年が経った今もその風貌は全く変わっていない。

 そして当時自分は迷子だと言い張る悠理へ、こんな場所に子供を忘れる親がいるかと諭したのも彼だった。

 その後もちろん紆余曲折はあったが、行き場のない悠理は彼の構えている便利屋に住み込みで居座ることになった。

 そして永井は義務教育である小中学校だけでなく、悠理に高校まで通えるよう環境を整えてくれたのだ。

 悠理にとって永井は恩人も恩人、世界で一番大切な人なのである。

 が、それでも裏社会の人間であることは間違いない。

 便利屋というのも、大抵その手の人間から請け負う仕事が多かった。
 
 現に悠理も殺し屋だの情報屋だのという物騒な、現代の日本社会にいるとは到底信じてもらえない知り合いが何人もいる。

 ――さすがに、そんな場所に住んでるとは言えないから、なあ。

 というわけで、住んでいる場所はと聞かれたら、前に住んでいた住所をこたえるのが常だった。

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