アルカナの抄 時の掟
第8章 「隠者」正位置
ヴェキは“いつものように”、気づかれないようカオルのあとを追いかけた。カオルは本殿ではなく、少し離れた別殿の方へ歩いていく。本殿方面とは違い、あまり人の近づかない場所のため、閑散としていた。
中へ入ると薄暗く、壁にかかるランプの灯りを頼りに、階段を降りていく。上へ続く階段もあったが、そこには用はないようだ。
降りた先の地下は、さらに暗かった。ランプではなく、壁にはたいまつが取りつけられていたが、片側だけだったため明るさは不十分だった。
カオルは、階段口にあった未使用のたいまつを手に取り、壁の炎に近づける。炎が移ると、それを頼りに、ゆっくりと進んでいった。壁の反対側には、天井までの鉄格子。たいまつで照らすと、それはかなり奥まで続いているようだ。
鉄格子に交差するように、さらにいくつもの鉄格子で仕切られ、小さな部屋のようなものが連なっている。…そう、ここは地下牢だった。ヴェキは階段口に潜む。だが、カオルがなにをしようとしているのか、大体予想はできていた。
カオルの表情は見えない。奥へと進むと、あるところでゆっくりと立ち止まった。鉄格子の向こう側の人物が振り向く。
「…誰かと思えば」
カオルの姿を確認すると、吐き捨てるように言った。カオルは無言だった。相手も顔を元に戻し、なにも言わない。ヴェキの位置からは、会話の内容は聞こえなかった。
「…セレナさん。食事はきちんと出されてるの?」
カオルが言うが、セレナはなにも言わない。
「遠い昔の出来事のようで、実はあれから、そんなに経っていないんだよね」
目を閉じるカオル。ひんやりとした空気の中、たいまつの燃えている音が時々聞こえる。
「…ひどいところだね。貴族の暮らしからこれじゃ、耐えられないんじゃない?」
目を開けてゆっくりと見渡す。しばらく使われていなかったのか、石造りの壁は緑がかっていた。
中へ入ると薄暗く、壁にかかるランプの灯りを頼りに、階段を降りていく。上へ続く階段もあったが、そこには用はないようだ。
降りた先の地下は、さらに暗かった。ランプではなく、壁にはたいまつが取りつけられていたが、片側だけだったため明るさは不十分だった。
カオルは、階段口にあった未使用のたいまつを手に取り、壁の炎に近づける。炎が移ると、それを頼りに、ゆっくりと進んでいった。壁の反対側には、天井までの鉄格子。たいまつで照らすと、それはかなり奥まで続いているようだ。
鉄格子に交差するように、さらにいくつもの鉄格子で仕切られ、小さな部屋のようなものが連なっている。…そう、ここは地下牢だった。ヴェキは階段口に潜む。だが、カオルがなにをしようとしているのか、大体予想はできていた。
カオルの表情は見えない。奥へと進むと、あるところでゆっくりと立ち止まった。鉄格子の向こう側の人物が振り向く。
「…誰かと思えば」
カオルの姿を確認すると、吐き捨てるように言った。カオルは無言だった。相手も顔を元に戻し、なにも言わない。ヴェキの位置からは、会話の内容は聞こえなかった。
「…セレナさん。食事はきちんと出されてるの?」
カオルが言うが、セレナはなにも言わない。
「遠い昔の出来事のようで、実はあれから、そんなに経っていないんだよね」
目を閉じるカオル。ひんやりとした空気の中、たいまつの燃えている音が時々聞こえる。
「…ひどいところだね。貴族の暮らしからこれじゃ、耐えられないんじゃない?」
目を開けてゆっくりと見渡す。しばらく使われていなかったのか、石造りの壁は緑がかっていた。