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アルカナの抄 時の掟

第9章 「審判」正位置

しばらくして、再び扉が叩かれた。

「私です」
先ほどと同じように、ヴェキが扉の外で返事をした。気のせいか、少し口調が早い。

もう報告だろうか。だが、それにしてはかなり早い。


「陛下、皇妃がいなくなりました。宮殿内はもちろん、周辺も探したのですが…どこにも」
アルバートが入室を促すと、入ってくるなりヴェキが言った。

向こうの世界へ戻ってしまったのだろうか…。


「“護衛の者”も姿が見えないので、彼女についていっているのだとは思いますが…」

アルバートは黙っている。

「――再度捜索に向かいます」
と、出ていこうとするヴェキを、アルバートが引き留める。紙を取り出すと、さっ、とペンを走らせ、ヴェキに見せた。

「探さなくていい」

紙には、『君はあの件を』と書かれていた。

ヴェキが「了解しました」と政務室を後にすると、アルバートは紙をライターで燃やした。窓の外に目を向ける。そして一点を見つめた。

すると、アルバートの瞳が燃えるような赤へと変わる。身体はぼんやりと光を放ちはじめ、微風をまとったかのように髪の毛が波打った――。



上空から国全体を見てまわる。だが、カオルの姿はどこにもない。まずい…外へ出てしまったようだ。

自分が皇帝じゃなければ…どこへでも探しにいくのに。

国外であれば、アルバートにはどうすることもできない。皇帝は、簡単には国を出ることができない。そしてもう一つ、理由がある。

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