
アルカナの抄 時の掟
第9章 「審判」正位置
「…あなたにだけは、知られたくなかった。私が賤民上がりだってこと」
カオルはそこまでは知らなかったが、顔には出さずに聞いていた。と、セレナがポツリポツリと話し始めた。
この国が出きる前のことよ。全体的に貧しかったけど、そうね、ここから少し南西へ行った――今は国境付近かしら――ある一帯は、特にひどい暮らしだった。口べらしや身売りなんて当たり前。そこに、私はいた。
地獄から抜け出したくて、家を飛び出した。出てくるのに必死だったから、当然お金も、食べるものもない。雑草でもなんでも食べたわ。お腹を壊すことなんてしょっちゅうだった。
そんなときに拾ってくれたのが、リーン夫妻――今の両親。国がない頃だから、当たり前だけど今の役職なんかにはついてなくて、自分たちも楽な生活ではなかったはずなのに。
お義父さまもお義母さまも良くしてくれたから、もちろん感謝はしてる。だけど、苦しかった。だからこそ、苦しかった。
良い娘でいなければと頑張ったわ。だけど、お義父さまたちは私の本当の親じゃない。そのことが、顔を合わせる度に心をかすめた。同時に、最悪だったあの頃の記憶も思い出した。
私からも、二人からも、あの時代の記憶をなくすことはできない。だから、本当の親子になんてなれやしない。
だけど、あなたは。国が栄えてから、ぽんと現れて、客人として迎え入れられて、あっという間に皇帝の妻。
私たちが死にものぐるいで得た穏やかな日常を、私がほしくてほしくてたまらなかった毎日を、当然のように過ごしてる。本当の努力や苦しみを知らないで。自分がどんなに恵まれてるか、気づきもしないで。
この国の人たちは、みんな、苦しい時代があったことを知ってる。だから嫌い。過去を知ってる彼らも、忌々しいこの土地も。
あなたも、この国の人も大嫌い。あの時代を知らないから。あの時代を知ってるから。皇帝も皇妃もいなくなれば、きっと国は成り立たなくなる。こんな国、なくなれば良い。
カオルはそこまでは知らなかったが、顔には出さずに聞いていた。と、セレナがポツリポツリと話し始めた。
この国が出きる前のことよ。全体的に貧しかったけど、そうね、ここから少し南西へ行った――今は国境付近かしら――ある一帯は、特にひどい暮らしだった。口べらしや身売りなんて当たり前。そこに、私はいた。
地獄から抜け出したくて、家を飛び出した。出てくるのに必死だったから、当然お金も、食べるものもない。雑草でもなんでも食べたわ。お腹を壊すことなんてしょっちゅうだった。
そんなときに拾ってくれたのが、リーン夫妻――今の両親。国がない頃だから、当たり前だけど今の役職なんかにはついてなくて、自分たちも楽な生活ではなかったはずなのに。
お義父さまもお義母さまも良くしてくれたから、もちろん感謝はしてる。だけど、苦しかった。だからこそ、苦しかった。
良い娘でいなければと頑張ったわ。だけど、お義父さまたちは私の本当の親じゃない。そのことが、顔を合わせる度に心をかすめた。同時に、最悪だったあの頃の記憶も思い出した。
私からも、二人からも、あの時代の記憶をなくすことはできない。だから、本当の親子になんてなれやしない。
だけど、あなたは。国が栄えてから、ぽんと現れて、客人として迎え入れられて、あっという間に皇帝の妻。
私たちが死にものぐるいで得た穏やかな日常を、私がほしくてほしくてたまらなかった毎日を、当然のように過ごしてる。本当の努力や苦しみを知らないで。自分がどんなに恵まれてるか、気づきもしないで。
この国の人たちは、みんな、苦しい時代があったことを知ってる。だから嫌い。過去を知ってる彼らも、忌々しいこの土地も。
あなたも、この国の人も大嫌い。あの時代を知らないから。あの時代を知ってるから。皇帝も皇妃もいなくなれば、きっと国は成り立たなくなる。こんな国、なくなれば良い。
