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アルカナの抄 時の掟

第9章 「審判」正位置

水にぬらし、手紙の内容をすべて読み取ったカオルは、紙を丸め直す。読んだ痕跡を消すため、先ほどまで下敷きでパタパタ扇いでいたのだが、意外にもすぐ乾いた。

ヴェキに怪しまれないように、食事に行く折りに寄っていくことにした。周りをうかがいながら植え込みの方へ歩いていく。

…よかった。誰もいない。

今のうちだ。さっと植え込みの中に押し入れ、足早に本殿へ向かった。





食事に向かおうとして、アルバートを見かける。すぐ隣には、フレアがいた。ずきり、と心が痛む。

カオルの付き人“だった”彼女とは、最近あまり顔を合わせていない。今ではもう彼女は“第二皇妃”だからだ。自分のそばではなく、アルバートのそばにいるのが自然なのだ。

彼女の身は大丈夫なのだろうか、とふと思う。彼女も皇妃なのだから、危険なのではないか。

…急がなくちゃ。

嫉妬に胸を痛めてる場合ではない、とカオルは足を早めたとき、誰かが正面に立ちはだかった。

「…そこ、どいてくれない?」
久しぶりに見た顔に、カオルは興味も示さず言った。相手は無言で立っている。

「……?聞いてる?」

「どうして」
男が口を開いた。…よく見ると、泣きそうな顔をしているように見えなくもない。

「――俺には笑顔も、涙さえも見せてくれないのに…あの人のためには泣く?」
男はそう言い、カオルの腕をつかんだ。

「父さんは、皇妃を皇帝から引き離せと言った。簡単だ。身体さえ懐柔してしまえば、心も俺のものになる…そう思ったのに」
悲痛な、すがるような目で見てくる。

「…なんで、俺のものにならない。なんで俺を見てくれないんだ…?」
男は美しい顔を歪ませ、声を震わせた。寄せてきた顔を、カオルは寸前で止め、押し返した。

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