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アルカナの抄 時の掟

第9章 「審判」正位置

翌日、日の出前。アルバートは私室にいた。窓を向いて立つ彼の身を、風が取り巻き、髪も衣服も大きくたなびく。やがて風は消え、収まった。たった今、国の見回りを終えたのだ。

ちょうどそこへ来ていたカオル。アルバートはカオルのいる扉付近に背を向ける形で立っている。一瞬、アルバートに大きな赤い鳥のような姿を見た気がした。

後ろの気配に気づいたアルバートが、顔の角度をわずかに変えた。それがカオルだとわかると、振り向く。


「…ごめん。アルバート…」
立ったままの彼の背に手を回した。アルバートは、抱き締め返すことはない。

やがて、そっと手を離し、アルバートから離れる。カオルの目から涙が流れ落ちた。溢れる涙もそのままに、アルバートに口づけた。


「愛してる。…またね」
そう言って、カオルは部屋を出た。

やがてアルバートにその言葉の意味がわかったときには、もう遅かった。





鐘の音が響くここは、先日の教会だ。修道服のような服を着たカオルが、扉をうかがっていた。

因みにここには修道女はいない。カオルはうまく紛れ込んだつもりだったが、この教会をよく知る信心深い者たちにとっては逆に浮いていた。

と、目的の人物が入ってきた。正確には目的の人物“たち”だ。座る席はわかっている。カオルは彼らの方をちらちら見ながら、気づかれないよう息を潜めた――。

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