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アルカナの抄 時の掟

第9章 「審判」正位置

そしてカオルは、暗闇を走っていた。目的地に急ぐためだけではない。カオルは追われていた。

毎日走っててよかった~…

遅刻しかけて学校まで走る、なんてことがしょっちゅうだったため、もう結構な距離を走っているが、そこまで苦痛ではなかった。


なぜこうなったかというと、話は数時間前に遡る。カオルは教会で、ある人物二人の会話を盗み聞きしていた。手紙で得た情報で、座る位置もわかっていた。だから携帯電話を椅子の下に隠し、録音もしていた。

抜かりなかった。だがカオルは忘れていた。携帯電話で録音できる時間は意外と短いということと、録音が終了すると中々に目立つ音が鳴るということに。

ピロリン、という教会には明らかに似つかわしくない機械的な音に、近くにいた誰もが気づいた。その瞬間、時が止まる。カオルは、凍りつく。

「あああああ」と謎の奇声を発し、それをさらに誤魔化そうと出てきたのは、「――めん!!アーメン!!」と続けるという、てんでセンスのない発想だった。

録られていた本人たちを含め、周りは一時何が起こったのかわからずぽかんとしていた。だが、当然不審に思わないはずはなく、逃げていく怪しい修道女を見てなんとなく察した二人は、すぐに追いかけてきたというわけだ。


走りながら振り返ると、うまく撒いたのか、誰もいない。少なくとも、視界に入らないほどに引き離せたようだ。…とほっとしたその時、追っ手の一人が目の前に現れた。

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