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アルカナの抄 時の掟

第9章 「審判」正位置

もうダメだ、と思ったその時、どこからか人が飛び出してきた。追っ手とカオルの間に立ち、その人は言った。

「…ここは私が。早く先へ」
顔を布で覆い隠していたので誰かはわからなかったが、女性の声だった。カオルは頷き、手短に礼を述べると、先を急いだ。


暫く走り、遠くに国境である河川と、橋が見えてきた。これを渡ればヴェルテクス王国だ。

あと少しだ…!

橋を渡っていると、突如、大きな影がカオルに覆い被さった。見上げると、翼と一本角を持った巨大な馬のようなものが、羽ばたいていた。

「あなたの望むところへ、連れていきましょうか」
馬のようなそれに乗った女性が、聞き覚えのない声で言った。半シースルーのヴェールを顔の前に垂らしており、先ほどの女性同様、顔はよく見えない。

「お願い」
カオルは迷いなく言った。なんとなく、この人は信用できると思ったのだ。差し伸べられた手をとり、その生き物に跨がった。





やがてたどり着いた先は、なんと、王国の城だった。

「ありがとう」
そう言ってカオルが降りた先は、玄関にあたる城門前ではなく、三階の一室だった。不用心に開けられたままの窓から、直接中に入ったのだ。

周辺には、ちょうど人はいなかった。そのまま国王の間を探す。

見つけたっ…!

バーン、と扉を開け放つ。中にいた全員が、一斉にカオルの方を見た。

「何者だ…!!」「どこから入った…!!」と捕らえにかかる守衛たちをすり抜け、カオルは国王の前に躍り出た。

「…なんだ、おまえは」
王が顔をしかめた。若い国王だった。

一か八かだ。失敗すれば…命を落とすかもしれない。だがそれは、覚悟の上だった。カオルは、すう、と息を吸い込んだ。

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