アルカナの抄 時の掟
第2章 「愚者」逆位置
続けて、アルバートはカオルに、各重臣や侍女たちを紹介した。皇太后や皇后などは見当たらない。どうも皇帝のほかに皇族はいないようだった。
そして最後に、玉座のもとまで来るようヴェキを呼んだ。彼は側近中の側近だが、それは異例とも言える抜擢だった。秘書兼口添え役、いわば宰相のような権限を与えられているのだ。
本来ならば今の左大臣辺りが財政部署などと兼任してつくはずのポジションに、重臣としてはまだ日が浅い彼が選ばれたときには、皇帝はいったいなにを考えているんだ、と場が大いに荒れたものだ。左大臣の職権の一部を得たようなものなのだから。
加えて、大荒れ必至のことを今またやろうとしている。
ヴェキはわけがわからなかった。自分はなにか皇帝に恨まれるようなことをしたのだろうか。こんなに目をかけてもらっては、古株の重臣たちにさらににらまれてしまう。
「なにしてるの。いいからおいで」
ヴェキが躊躇していると、アルバートが満面の笑みで促した。
仕方なく、頭を低くしながら玉座へと近づいていく。
やがてアルバートと並んだとき、アルバートは言った。
「カオルはここに来たばかりで、きっとわからないことが多いから、ヴェキがいろいろ教えてあげてくれないかな」
「は?」
「もちろん、そのほかは今まで通りで。…大変?」
つまり、アルバートは、これからは僕だけじゃなくカオルの世話もよろしく~!と言っているのだ。することはだいたい同じだが、意味がまったく違った。カオルには決定権などなく、近づいたとしても意思決定の過程に介入できるわけではない。政治的にはまったく無意味なものだった。
「いえ。喜んでお引き受けいたします」
それを聞き満足そうな笑みをこぼしたアルバートに、ただ、と続けた。
「彼女は女性ですので、女性の付き人などもつけるべきかと」
恐れながら、と冒頭に付け足してヴェキが言った。
「ふむ。確かにそうだねぇ」
アルバートは少し考えると、じゃあそれはあとのお楽しみってことであとで向かわせるね、と告げた。
「じゃあ、そういうことでよろしくね。付き人、何人か考えておくよ」
ニコニコと言い放ち、カオルにじゃあね、と手を振ると、アルバートは謁見の間を出ていった。
そして最後に、玉座のもとまで来るようヴェキを呼んだ。彼は側近中の側近だが、それは異例とも言える抜擢だった。秘書兼口添え役、いわば宰相のような権限を与えられているのだ。
本来ならば今の左大臣辺りが財政部署などと兼任してつくはずのポジションに、重臣としてはまだ日が浅い彼が選ばれたときには、皇帝はいったいなにを考えているんだ、と場が大いに荒れたものだ。左大臣の職権の一部を得たようなものなのだから。
加えて、大荒れ必至のことを今またやろうとしている。
ヴェキはわけがわからなかった。自分はなにか皇帝に恨まれるようなことをしたのだろうか。こんなに目をかけてもらっては、古株の重臣たちにさらににらまれてしまう。
「なにしてるの。いいからおいで」
ヴェキが躊躇していると、アルバートが満面の笑みで促した。
仕方なく、頭を低くしながら玉座へと近づいていく。
やがてアルバートと並んだとき、アルバートは言った。
「カオルはここに来たばかりで、きっとわからないことが多いから、ヴェキがいろいろ教えてあげてくれないかな」
「は?」
「もちろん、そのほかは今まで通りで。…大変?」
つまり、アルバートは、これからは僕だけじゃなくカオルの世話もよろしく~!と言っているのだ。することはだいたい同じだが、意味がまったく違った。カオルには決定権などなく、近づいたとしても意思決定の過程に介入できるわけではない。政治的にはまったく無意味なものだった。
「いえ。喜んでお引き受けいたします」
それを聞き満足そうな笑みをこぼしたアルバートに、ただ、と続けた。
「彼女は女性ですので、女性の付き人などもつけるべきかと」
恐れながら、と冒頭に付け足してヴェキが言った。
「ふむ。確かにそうだねぇ」
アルバートは少し考えると、じゃあそれはあとのお楽しみってことであとで向かわせるね、と告げた。
「じゃあ、そういうことでよろしくね。付き人、何人か考えておくよ」
ニコニコと言い放ち、カオルにじゃあね、と手を振ると、アルバートは謁見の間を出ていった。