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アルカナの抄 時の掟

第2章 「愚者」逆位置

重臣たちもバラバラと席を立ち始める。ヴェキも動き、檀上を降りていくのでカオルも慌ててそれに倣う。

と、玉座の後方に、凝った細工の箱が置かれていた。鳳凰やフェニックスのような生きものが翼を広げた姿が、細かく丁寧に描かれている。
何気なく開けてみる。中には何も入っておらず、他にも特に変わったところはなかった。

開けるとメロディーが鳴る、大きなオルゴールにでもなってたらすごいのに。

「早く降りてください」
先に降りたヴェキが言った。

箱のふたを閉じ、カオルも慌てて降りる。と、あと少しというところで、下に敷かれていた絨毯のたるみにつまずき、バランスを崩した。

「わっ…!」
とっさに支えるものを探すが、学校の階段のような手すりはなく、右手が空をきる。反対の脚を前につきだそうとするが引っかけてさらに勢いづき、そのまま、前に倒れ込んだ。

「ぎゃあああ」

そうだった…私、災厄の魔術師なんだった。

一瞬の出来事だった。顔から落ちたはずだが、なぜかそこまで痛くない。麻痺しているのだろうか。顔はじんじんとしてはいるが、なんだか温かいというか、やわらかい…。

立ち上がろうと手を伸ばすと、ちょうどいいところに何か固いものがあったので、それに体重をかけ、膝を立てた。

「いたたた…」
目を開け、ぎょっとする。誰かの脚のつけねが目の前にあった。

顔を上げると、ヴェキの顔。その目は、冷ややかにカオルを貫いていた。

ま、さ、か…。

カオルが体勢を崩した先にはヴェキがおり、巻き込みながら倒れこんだのだった。しかも、どうすればこうなるのか、カオルの顔は、ピンポイントでヴェキの股に突っ込んだらしい。カオルはたった今、男性の股間に顔をうずめていたのだ。

「ぎゃあああごっごっごめんなさいっっ!!」
つかんでいたヴェキの脚を慌てて手離し、身体を離す。立ち上がると、ヴェキも静かに身体を起こした。

「あ、あの~…」
無言のヴェキを、顔色をうかがうように見る。

ヴェキはそのまま無言で立ち去ってしまった。

「………」
カオルは、去っていくヴェキの背中をただ見送ることしかできなかった。

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