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アルカナの抄 時の掟

第10章 「世界」正位置

「…ただいまー」
家に帰ってもそれは同じだった。見慣れた空間のはずなのに、懐かしいとは思わなかった。

もとに戻っただけなのに。なんだろう…この喪失感。レイミエで皇妃として過ごしてた毎日が、懐かしくて恋しい。今の私は、皇妃でも何でもないんだよね。

なくして初めて気づくってこういうことなんだなあ…。流れていく時間が、アルバートのいるあの場所が、こんなにも、かけがえのないものだったなんて。

自分の部屋に入り鞄を置く。一旦出ていき、ロボットのように夕飯と風呂を済ませて戻ると、宿題をするため勉強机に座った。何かしてないと落ちつかない。鞄から筆記用具と宿題のプリントを出し、やり始めた。

手が止まり、考え込む。そしてふと、ノートを取り出して開けてみる。…あのノートだ。


『レイミエ帝国』

私の字と、

『もう飽きちゃったの?』

――懐かしい字体。


ぱら、とページをめくる。

ぱら、ぱら。

ぱらぱらぱら。


『愛してる』


思い出すのは、ただ一人。あの人の思い出ばかりが…あふれ出す。

「アル、バート…」
込み上げてくるものは。


会いたい。

会いたい。会いたい。会いたい。ノートに書きなぐる。


「うっ…」

涙が、止まらない。

会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。


なんで彼の顔ばかり出てくるの。なんで彼との思い出ばかりなの。なんで…彼はここにいないの。

「っ…会いたいよぉ…、アルバートぉお…!!」
泣きじゃくっていくら叫んでも、もう会えない。もう、向こうの世界には行けないのだから。

宿題なんてまともにできるはずもなく、早めにベッドに入って眠り込んだ。

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