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アルカナの抄 時の掟

第10章 「世界」正位置

次の日。泣きはらした目で、学校へ向かう。顔を上げれば、建物の隙間から空が見える。レイミエのきれいで大きな空を思い出して…また少し、泣いてしまった。

ごしごし、と涙をぬぐうと、前を向く。すぐそこには、細い横道。

…と、その横道から自転車が出てきた。…この自転車は。

「あーー!!」

あの時トロトロ走ってた人!

少し長めの茶髪の…高校生だろうか、ブレザーを来た青年。私の声に、青年は振り向いた。


あ、れ…?


一瞬目が合う。けれど、彼はすぐに顔を戻した。

どんどん遠くなっていく彼を、目で追う。ちらりと横顔が見えただけだけど。私…この人を知ってる。ただの顔見知りとかじゃない。この人は…。

追いかけて確かめようと思った時には、青年はもう遠くまで行っていた。幻…だったのかな。私が、会いたいって思ってるから…そう見えたのかもしれない。

そのうち、青年はどこかへ行ってしまい、私は諦めて学校へと急いだ。





まだ静かな校舎。昨日に続いて、早い登校だ。靴を履き替え、廊下に出る。と、向こうから深見先生がやってきた。私を見て、先生は少し驚いた。

「おはよう。珍しく、遅刻でも遅刻寸前でもない日が続いてるな」

「おはようございます。まだ二日目ですよ」

「それでも珍しい方だろ、おまえは」

ふ、と優しく笑う先生を、じっと見る。…だって、なんだか。

「…変わったな」
目を伏せ、笑みを浮かべて立ち去る先生の顔は、なんだか見覚えがあった。ああ…そうだったんだ。

小さくなっていく背中に、ありがとうございましたと心の中で言うと、くるりと向きを変えて教室へ向かった。

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