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アルカナの抄 時の掟

第2章 「愚者」逆位置

ぐいぐい引っ張られて、あれよあれよという間に連れてこられた先は、二階のバルコニーだった。気づけばカオルは椅子に座っており、目の前にはアルバートが座ってニコニコしている。

「ミルクいるー?」

「…じゃあ、お願い」

付き人などはおらず二人きりだった。貴族のたしなみなのだろうか、アルバートはお茶の用意には慣れているようだった。

「おいしい?」

「うん、ちょうどいい甘さでおいし…じゃなくて。のんびりしてる場合じゃないよ!帰る方法探さないと!」

「帰らなくていいんじゃない。ずっとここにいたらいいよ」
さらりと言うアルバート。

いい、のかなぁ…。このままここにいて。

学校に行かなくていい日々。遅刻のない日々。なにも考えずに、ただ毎日をすごす…そんな日々。
…別にこのままでも悪くない気がしてきた。

「…うん、いいかも」

「ね」
アルバートは笑顔を向ける。そんなアルバートをぼーっと眺めるが、はっとする。

「…いやいやダメダメダメ!やっぱりダメだよこのままじゃ!」

親も心配してるだろうし。愛犬にえさあげないとだめだし。

「えー」

カオルは静かに飲み干すと、カチャリ、とカップを置いた。ふぅ、と視線を移す。バルコニーからは、かなり遠くまで眺めることができた。二階とはいえ結構高く、周辺の豊かな街なみが、遠くに塔のような建物が見えた。

どうしたら帰れるんだろ。

「もう一杯いる?」

「ううん、いい。ごちそうさま」
カオルは椅子から立ち上がり、バルコニーを出た。

ちょっとだけ、気分が落ち着いたかも。

「どこいくのー?」
アルバートがついてくる。

「もう一度、最初にいたところまで行ってみる」

「それなら僕もいきたい」

「…また怒られるんじゃないの?」

「すぐ戻るから、ここで待ってて」
そう言い残すと、アルバートは行ってしまった。

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