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アルカナの抄 時の掟

第2章 「愚者」逆位置

目を開けると、カオルの部屋だった。もちろんもとの世界のではなく、カオルに与えられた、宮殿の一室だ。

…私、意識なくしたんだ…。

身体が暖かい。見ると、だれかの右腕がカオルの上に乗っていた。カオルの右側から伸びているその右腕の先を目で追うと、カオルの左胸に、しっかりと触れていた。

「ちょっ…!」
ばっ、と右を見ると、すぐ横にアルバートの顔があった。少しうねった紫の髪先が、カオルの頬に触れている。アルバートが、カオルを抱き締めるように寝ていた。

「ぎゃあああ!!!」

「ん……」

「起きて!起きてよ痴漢っ!!」
手をどけて、アルバートの顔をバシリと叩いた。

「んー…。あ、カオル?大丈夫?」

「全然大丈夫じゃない!バカッ!!」
ガバリと上半身を起こして叫ぶ。

「まだ痛むの?」
アルバートも身を起こし、ちょっと見せてみて、と手を伸ばす。

「いやっ、そっちは大丈夫っ!」
カオルはアルバートの手を振り払うと、ベッドから離れる。

「そっか。ごめんね、つい本気出しちゃった」

なんかムッとくるなぁその言い方。

「じゃあ、またね」
アルバートはそう言うと、手を振って出ていった。

カオルは立ち上がり、窓辺へ向かう。既に日が傾き、空を茜色に染め上げていた。

…今日も手がかりを見つけられなかった…。

カオルは、はあ、と本日二度目の深いため息をついた。

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