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アルカナの抄 時の掟

第2章 「愚者」逆位置

あれから、何日かすぎた。無駄にすぎた。その間、毎日のようにアルバートが部屋へ訪れては、「散策しよう」「買い物にいこう」などとカオルを強引に連れ出した。

だが、今日は違った。いつもやってくる頃をとうにすぎているが、アルバートは一向に現れない。

あれで皇帝だもんねぇ。

多忙なのだろう、とカオルは結論づけた。カオルの怪我を少し気にしている、 というのもあるかもしれない。

「バドミントン、かぁ…」
ぼそりとつぶやく。カオルの幼い頃、周りではバドミントンが流行っており、よく遊んだものだ。

ふと、携帯電話を取り出す。相変わらず、圏外、の文字が目に入ったが、なんだかもうどうでもよくなっていた。
カオルはぷち、ぷち、と操作する。あるものが目にとまり、ついくちもとがゆるむ。友人に送ってもらった、高校のバドミントン大会のときのカオルの写メだ。

「懐かしい~…」
たいして昔のことでもないのに、なぜだろう、とても懐かしく感じた。

そういえば、あのときアルバートが取り返してくれてなかったら…この思い出も全部、盗られたままだったんだよね。

しばらく友人たちからのメールを読み返したり、携帯で撮った画像を眺めたのち、パタンと閉じた。そのまま携帯を鞄に投げ入れると、ベッドにうつ伏せに横たわる。

「はあ~…」
ゴロリと寝返りをうつ。…なんだか気分が上がらないのは、もとの世界のことを思い出して、寂しいからだ。

「アルバートがこないからじゃないよ…」
カオルは確かめるようにつぶやくと、天井を見つめた。やがて、身を起こすと、ベッドを離れて部屋を出た。

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