テキストサイズ

アルカナの抄 時の掟

第2章 「愚者」逆位置

「ふっ、ん…はあ…っ」
アルバートには既に余裕がなくなっていた。

と、カオルがそれに顔を近づける。

「カオ、ル…ッ」

と、唇がそれに触れる寸前で、ピタリとすべての動きを止めた。

「はあ…はあ…。…カオル…?」
息のあがったアルバートが呼びかける。
カオルはそのまま顔をあげ、アルバートから離れる。アルバートは、部屋を出ていくカオルの背中を、ただ呆然と見送った。




翌日。

「カオルー!ゲームしよ――…あれ?」
またアポなしノックなしでカオルの部屋へ入ったアルバートは、拍子抜けした。珍しく、カオルは部屋を空けていたのだ。

「どこにいるんだろ」
探しにいこう、とアルバートはカオルの部屋を出ていった。



一方、カオルはというと、実はまた宮殿内を探索していた。

「ヴェキさんとかの部屋ってどこなのかなあ」
ギギ、とドアを開けながら、カオルが言った。

鍵のかかっていない、ドアというドアすべてを開けて中をのぞいていた。

本殿から離れへ渡ろうと、渡り廊下を通る。この辺りはヴェキにも案内されておらず、行くのは初めてだった。
廊下はなんとなく和風の邸宅を思い出す作りで、懐かしさを覚えながら進んでいく。と、人の気配を感じた。

誰だろう、とうかがっていると、若い女性が正面から優雅に歩いてきた。

「あら?」
女性がこちらに気づき、声を上げた。

「あ…こんにちはー」

「あっ!あなたは…もしかして、カオルさまではありませんか?陛下のご友人の!」
無邪気に笑う女性は、それでもどこか気品があった。

「そう、ですけど…。なんで知ってるんですか?」

「父から聞きましたの。…申し遅れました、わたくし、セレナと申します。どうぞお見知りおきくださいな」

なるほど、お嬢様だ。…粗相のないようにしなきゃ。

「いえ、こちらこそ…」
出てきたのはこれだけだった。やはりなれていない、丁寧な言葉を急に話そうとしてもスッとは出てこない。
逆に言えば、セレナというこの女性は、それだけ使いなれているということだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ