テキストサイズ

アルカナの抄 時の掟

第3章 「女帝」正位置

「アルバート~」

今日もまた、カオルのところへ行こうとアルバートが部屋を出ると、珍しくカオルが来ていた。

「んー?」

「ちょっとお茶しない?」

えっ、と声をあげ、アルバートの顔が輝く。

「初めてカオルが誘ってくれた!」

歓喜のまなざしが、カオルにチクリとささった。

なんだろう、この罪悪感…。

「うん…ちょっとね、友だちを紹介したいんだ。先にバルコニーに行ってて」

「わかった、待ってる」

アルバートといったん別れ、カオルはセレナをバルコニーに連れてくる。セレナを紹介すると、アルバートは、面識があるのかないのかよくわからない反応をしてカップに口をつけた。

少し談笑すると、カオルが突然席を立った。

「あ、私…お茶うけのお菓子用意してくる」

バルコニーを離れ、厨房へ向かう。厨房には頼んでおいた焼き菓子が並んでおり、それらをトレイに乗せると、そこで少しぼんやりする。二人で話せる時間を長くするためだ。

…どのくらいで戻ればいいんだろ。

と、調理中の料理人らしき人が話しかけてきた。

「こらこらお嬢ちゃん。焼き菓子は焼きたてじゃないと!」
たくましい腕を組み、大きな声で言った。

「あ、すみません。でもいいんです」

「いいわけあるか!ほらほら、さっさと持ってった!」
料理人はトレイをカオルに押しつけると、追いたてた。

「いや、あの」
なんと言えばわかってもらえるだろうかと考えながら、必死に抵抗する。

「まだなにかいるのか?」

「…そうなんです!水を」

「水?お茶じゃなくてか?」

「みっ未成年なんで!」
自分でもなに言ってんだろと思いながら、流しへ向かう。

「変わったお嬢ちゃんだな」
料理人はぽりぽりとこめかみをかくと、油の入った中華鍋を再び手に取った。

高熱になった油が音をたて、料理人が本格的に調理し始めたときを見計らい、カオルはわざとのんびり水を飲み、さらに水をついだ。すぐ横では先ほどの料理人が調理中だったが、気にしなかった。

取り敢えずここから出てもう少しどこかで時間を潰そう、と水の出ている蛇口を思いきりひねった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ