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アルカナの抄 時の掟

第3章 「女帝」正位置

一方、その頃アルバートたちは、ぼちぼち会話を続けていた。

「カオル遅いね」

と、その時、爆音が響いた。

バルコニーから調理場までは少し離れているはずなのに、同時にカオルの声が微かに聞こえた気がした。

「カオル!?」
アルバートはあわてて立ち上がると、音源へと飛んでいった。



調理場では、料理人の中華鍋から火の手が上がっていた。カオルは蛇口を閉めようとして逆にひねったのだ。水の流れの最大になった蛇口が水しぶきをあげ、隣のコンロに飛び散り、爆発してしまった。

「なあにやってんだ、ばかもんっ!!」

「ギャアアアごめんなさい!!!どっどうしよう!!取り敢えず水かけなきゃ…っ」

「まっ待て!それはマズイっ!」

「だって火が!」

そんなやり取りをしているところへ、誰かが飛び込んできた。

「なんの騒ぎです」
そう言ったヴェキは、中華鍋から上がる炎を見てぎょっとした。あわてるカオルたちから、だいたいのことは想定できた。

「たっ助けて――死んじゃうよぉお!!!」

「まず火を止めて。次にそこの布を濡らして被せなさい」
キリリとした声が響く。その通りにすると、炎は鎮火した。

「よ、よかったあ…」
ほっとするカオルになにかが近づき、ふっ、と影がかかる。見上げると、無表情のヴェキが目の前に立っていた。

次の瞬間、バシッ、と左の頬に衝撃が走った。予想外の出来事に、目を見開いてもう一度相手を見る。いつもの無表情だと思っていたその顔は、なんだか懐かしい感じがした。

父や兄のそれのような――厳しい目だった。

「今後は流しのすぐ横のコンロでは揚げ物を調理しないように」
料理人に言うと、ヴェキは出ていった。


「カオル!!」
少し経ち、アルバートが厨房へ現れた。カオルは無言だった。

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