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アルカナの抄 時の掟

第3章 「女帝」正位置

アルバートが全速力で走ったせいか、すぐにアルバートを追いかけてほぼ同時に厨房へ向かったはずのセレナが、あとからかけつけた。

「カオルさん――ケガはない?」

「うん、大丈夫。ありがとう」
落ち着きを取り戻していたカオルが答えた。アルバートを見て、はっと思い出す。

「あ…アルバートと話せた?」
声をひそめて言うと、セレナは微笑んだ。

「ええ…少しだけ」

「そっか。よかった」

セレナと別れて二人になると、アルバートが、ねえ、とカオルに切り出した。

「神さまって、いると思う?」

「……は?」
やぶからぼうに宗教的な話を始めたアルバートに、カオルは戸惑う。

「僕はね…いると思う」
アルバートは構わず続ける。

「いろんな神さまがたくさんいてね。どんなものにも宿ってるんだよ。例えば」
ほら、と風に揺れる木々を指さす。

「あの木にも。…だからもし、あの木の枝がほしいと思ったときは――心のなかでお願いするんだ、神さまに。ひと枝ください、ってね。それから手折るんだ」

アルバートはたまに、不思議なことを言う。

「水の神さまも、炎の神さまだっているよ。全部同じ。同じようにするんだ」

なぜ今、こんな話をするのだろう。

理由などないのかもしれないが、アルバートの言葉の意味をぼんやりと考えるうち、カオルは無言になっていた。

「それじゃ、またね」
いつもと変わらない笑顔を見せると、アルバートは自室へ戻っていった。



手を洗おうと洗面台の前に立ったとき、カオルはふと、先ほどのアルバートの言葉を思い出す。なにかがほしいとき、その神さまにお願いする…か。

…水を使わせてください。

そうして蛇口に手を伸ばしたとき、気づく。

「…そうか」

私はいつも、無計画に、思いつきで行き当たりばったりの行動をしてた。だから余裕がなくて…あわてるから、失敗するんだ。

こうやって動く前に一呼吸置けば、ゆとりができる。また、手を洗う自分のイメージも、自然とできるだろう。何をどうしたらどうなるか、イメージしながら動けば、失敗は少ない。

「ノープランでの行動はダメってことね」
カオルは手を洗うと、鞄からノートを取り出した。

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