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アルカナの抄 時の掟

第3章 「女帝」正位置

「…アルバートって、なんかいつも自分を隠してる気がする」
ぽつり、と独り言のようにカオルが言う。



「演じてるっていうか、いつも本心じゃないっていうか…そんな感じ」

他愛ない話の脈絡とはうって変わっての唐突な指摘に、アルバートは面食らう。

「…もしかして本当は、頭いい人なんじゃないの?」

実はそれは、前々からなんとなく感じていたことだった。カオルはそれを、今も、これからも言うつもりはなかったのだが、なぜかぽろりと口にしていた。


アルバートは終始沈黙していた。確かに事実だったが、誰にも指摘されたことはなかった。

カオルは振り向かずに言ったため、気づかなかった――アルバートの驚いた目が、しばらく自分を見つめていたことに。


そのとき、扉がノックされた。「んー?」、とアルバートが返事をすると、ヴェキが「失礼します」と入ってきた。

「陛下、少々お話が」
カオルの存在に気づくと、ヴェキが言った。

「楽しくおしゃべりしてたのにぃ」
ちょっと待っててね、とアルバートは出ていった。

部屋に一人取り残されたカオルは、所在なくぼんやりとする。ここは皇帝の私室。考えてみれば、自分が今こんなところにいるというのはなんだか不思議な気分だった。
ふと、窓に目をやる。

ん…?

気のせいだろうか。今、この前見た紅い鳥が飛んでいくのが見えた気がした。よく見ようと立ち上がったとき、ちょうどアルバートが戻ってきた。

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