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アルカナの抄 時の掟

第4章 「塔」正位置

「いたたた…」

「う…。カオル、大丈夫?」

「うん…なんとか」

身体を起こし、足元を見る。片足のヒールがなくなっていた。

「やっちゃった…」

アルバートが起き上がり、カオルに手を差し出す。

「靴は新しく持ってきてもらえば大丈夫だよ。立てる?」

「うん…」
手を取り、立ち上がる。まだ少し足が痛む。

と、ヴェキが近づいてきた。

「靴なら取りにいかせました。少しすれば戻ってくるでしょう」

「そうか。さすが、仕事が早いね。…カオル、それまでバランス悪いだろうけど、我慢しててね」
料理取ってくる、とアルバートは行ってしまった。


「あなたは落ちるのが好きですね」
呆れたように言った。

「別に好きってわけじゃないんですけどね…」

と、靴を取りにいってくれていたらしいエマが戻ってきた。

「靴をお持ちしました」

「せっかくのパーティーなのに走らせてごめんね。…いつもいろいろとありがとう」
靴を受けとると、カオルが申し訳なさそうに言った。

普段、食事を服にこぼすなど、なにかと粗相の多いカオルは、侍女たちには特に世話になっていた。それだけでなく、彼女たちは、アルバートがいない間の話し相手にもなってくれていた。

「とんでもないです。…では、そちらの靴を」
エマは、カオルが今履き替えた、ヒールの折れた靴を示す。と、いいえ、とヴェキが口をはさんだ。

「私が持っていきます。あなたはテーブルに戻りなさい」

「でも…」

「このような騒がしい場から抜け出せる大義名分を、私から奪うのですか?」

「…では、お願いいたします。ありがとうございます」
一礼し、エマは戻っていった。

「では」
はきかえた靴を受けとると、ヴェキは頭を下げ、扉へ向かった。

「ヴェキさん、ありがとう」
慌ててその背中に言う。聞こえたのか聞こえなかったのか、そのまま振り向きもせず行ってしまった。

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