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アルカナの抄 時の掟

第4章 「塔」正位置

一人、ぼーっとしていると、声をかけられた。

「カオルさん」

今一番気まずい人物の声だった。おずおずと顔を向けると、セレナが近づいてきた。

「セレナさん…あの…」

「遅くなったけれど、結婚おめでとう」

「ごめん…」
セレナの優しい微笑みが、つらかった。

「ううん、いいの。なんとなくこうなる気がしていたから。とてもお似合いのカップルよ。心から祝福するわ」

「うん…ごめん」

「…そんな顔しないで。本当にうれしいのよ。おめでとう」
セレナはそう言い、微笑んだ。

セレナさん…。

「ありがとう」
カオルは笑みをこぼす。それは、安堵の笑みでもあった。

「…そろそろ失礼するわね。またね」

「またね」
手を振り、セレナが遠くなっていくのを見送ると、ちょうどアルバートが戻ってきた。

アルバートの持ってきた料理はどれもおいしかった。ケーキをはじめデザートもたいらげ、体重が少し気になったが、パーティーは非常に楽しめた。





その夜、いつものようにカオルはソファー、アルバートはその横に布団を敷いて寝ていた。

と、カオルがむくりと起き上がった。アルバートはおだやかに寝息をたてている。カオルは静かに部屋を出て、階段を降りた。ふらりと外へ出ると、大きな月がこちらを見ていた。

門は閉まっていた。さすがに敷地外へは出られないようだ。

「おや、これはこれは皇妃殿下」
見ると、40歳前後の、豊かな髭を生やした男性が立っていた。

「こんばんは。…どこかで会いました?」

「これは失礼。私は右大臣、ルーウィン・ダイナス。一度、謁見の場にてお目にかかってはいるのですが…まあ、覚えておいででないのも無理はないか。しかし…」
ダイナスが顎に手をあて、髭をさわる。

「…こんな夜更けに、こんなところで皇妃をお見かけするとは。いかがなされたのかな?」

「なんか眠れなくて…ちょっと考えごとしてました」

「そうですか。僭越ながら、このような時間に外を出歩かれるのは…お控えになった方がよろしいのではないかな」

「…はい」
カオルがしゅんとする。右大臣は、では、と去っていった。

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