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アルカナの抄 時の掟

第4章 「塔」正位置

朝を迎える。宮殿は荒れていた。セレナは、リーンという右大臣派の中堅臣下の娘だった。彼女の捕縛はその家族に直ちに知らされた。
一般には、他国からの侵入者によるものと伝えられた。

皇帝不在の重臣たちによる緊急召集が行われ、ヴェキは皇帝の様子を伝えた。

もちろん、ここに集まる重臣たちには、セレナによるものだと知らされている。セレナの家族のほとんどは、左遷という形で宮殿から追放されたのだ。いずれにせよ、ここにいる者たちは知ることになっただろう。

「なぜこのようなことになったのだ」
そう言ったのは、右大臣だった。

「…わかりません」

恐らく、これは右大臣の命によるものだろう。だが、右大臣は知らぬ存ぜぬと言う。切り捨てたのだ。

「本当にリーン家のみによる陰謀なのか?」

「…裏で手を引く者がいるだろうな」
お前だろ、とばかりに左大臣派の一人が言った。

「そういえば」
右大臣が口を開く。

「事件の前の晩、ルーデン殿との会談が終わって部屋へ帰る折――あるお方を外でお見かけしたな」

ルーデンとは、ヴェキのことだ。

「…どなたです?」
ヴェキが言った。

「それが、皇妃なのだよ」
ふ、と不適に笑う。

「…皇妃が黒幕だとでも?」

「いやいや、そこまでは言っておらんよ。ただ――少しでも疑いのある者を、人民は皇妃として認めるだろうかと思ってな」

「…新しい人物を皇妃として立てろ、と?」

「彼女は歳も若い、宮殿での暮らしも浅い。政治にも疎く、経験も薄い。…私はその方がいいと思うがね」

…こうきたか。

カオルを殺害するのに失敗したため、今度はその皇妃の座から引きずり下ろそうというのだ。

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