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アルカナの抄 時の掟

第5章 「皇帝」正位置

目が覚めると、周りはすっかり明るくなっていた。アルバートの手を握りしめたまま寝ていたようだ。

はっ、とアルバートを見ると、まだ眠っていた。顔色はよくなっているものの、うっすらと汗をかいている。汗を拭おうと、席を立とうとすると、離そうとした手を強く握られた。

「…カオル」
おはよう、と言った。

「…アルバート…!!」
カオルも握り返す。

「もう平気なの…?」
カオルが言うと、アルバートが微笑んだ。

「バカ…」
くしゃりと、カオルも笑う。

「カオルを守れてよかった」

それは、すごく優しい目だった。


「…ねえ、アルバート」
真剣なまなざしでアルバートを見据えた。

あのときからずっと、思ってた。

「ん」

「ずっと私を守ってくれてたの?」

アルバートは無言だった。

「全部わかってたの?だから私から離れなかったの?教えて」
カオルは、話をそらさせまいと、アルバートの瞳をしっかりと捕らえた。


「キスしてくれたら、少しだけ話すかも」
それでも飄々と逃げようとするアルバート。

カオルは、瞳を閉じ、ためらいなく口づけた。
目を開けると、アルバートの驚いた顔があった。

「全部教えて。知ってること」

アルバートは無言だった。

「足りないならもっとするけど」

「…いや、話すよ」
くす、と笑う。


「…臣下たち、特に上層部が対立してるのはヴェキから聞いてる?」

「うん」

「これ、結構前からなんだよね」

「…そうなんだ」

「でさ、なんかこの国のおとぎ話…信じてるらしくて。娘を使って国を牛耳ろうと、こぞって僕に婚姻話を持ちかけてきたんだよね。右大臣たちが。それに対抗して、左大臣たちも持ちかけてきてさ」

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