テキストサイズ

アルカナの抄 時の掟

第5章 「皇帝」正位置

「ところが、その効果は一時的なものでしかなかった。彼らは、自らの企みを脅かす、別の芽を見つけた。カオルが女性であるがゆえの、ね」

「知ってる…実は、会話を聞いたの。多分その人たちが話してた」

「…そっか。不安にさせたね」

「…ううん」

「だから、それならいっそもう君を正式に娶っちゃっおうと思った。そうすれば、自然に君の側にいられるから。僕が一緒にいられないときは、なるべくヴェキに近くにいさせてね」

一人になることが少なかったのは…偶然ではなかったのだ。ずっと、側で守ってくれていた。

「でも…右大臣たちの企みはそれだけではついえなかった。一緒にいたくて、君を守ろうと思って君を妻に迎えたことが…彼らにとってむしろ、君を狙わなければならない決定打となってしまった」

眉を下げてこちらを見つめる。悲痛な瞳の奥の、あたたかいまなざし。いつも、当たり前のように受けていた、そのあたたかなものは。


とてつもなく、深い愛。本物の愛だ。


「ごめん…ごめんなさい…」
カオルはいつのまにか、涙を流していた。アルバートは…こんなにも自分を想っていてくれていたのだ。

それなのに…私は。

無下にしてしまっていた…。今までずっと。気づいて…いたのに。

だけども彼は、そんな自分を命懸けで守り、傷ついたその姿で、やわらかく微笑みかけている。

私の、せいなのに。

「怖い思いさせてごめんね。君に話した方が守りやすいかなとも思ったんだけど…。向こうに気づかれないように、自然にしてた方がいいと思って」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ