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アルカナの抄 時の掟

第5章 「皇帝」正位置

翌日になると、アルバートの具合はだいぶ良くなっていた。

「カオル~」
ベッドから身を起こし、甘えた声を出す。

「ん」
夕食後のティータイムを楽しんでいたカオルは、カップに口をつけながら顔を向ける。

「しよっか」
満面の笑顔。

「なにを?」

「エッチ」

ぶ、とカオルが吹き出しそうになる。

「な、なに言ってんの!いきなり!」

「こうして晴れて両想いになったんだし、そろそろいいんじゃないかと思うんだ」
キリッ!と、アルバートが言った。

「キリッ、じゃない!まったく、ダメに決まってるでしょ」

「…カオルが冷たい。カオルが冷たい!…なんで~。僕のこと好きじゃないの~?」
今にも泣き出しそうな顔でめそめそと言った。演技であることがわかっているので、カオルは動じない。

「好きだけど…私未成年だし、まあ道徳的に無理だね」
めんどくさそうに答えると、アルバートは不満げな顔をした。まだなにか言いたげだったので、それにまだ病み上がりでしょ、と付け加えると、アルバートは黙った。

「じゃあ胸さわるのは?」
それでも諦めないアルバートがぼそぼそと言うと、カオルは顔を背けた。

「…いいよ」
カチャリ、とカップを置いた音に消え入りそうなほどの小さな声で、カオルが言った。
自分の気持ちを自覚したとはいえ、急には変われないものだ。カオルは、どうしていいかわからないでいた。

アルバートはくちもとをゆるめると、カオルの隣に座る。おいで、と膝の上へ座るよう手招きすると、カオルが恥ずかしげに腰をかけた。

「…カオル、好きだよ。愛してる」
アルバートがカオルを抱きしめる。

耳もとでささやくその声が、どれほどの攻撃力を持っているのか…アルバートにはわかっているのだろうか。

「私も…愛してるよ」
そっと、アルバートの腕に触れた。

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