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アルカナの抄 時の掟

第5章 「皇帝」正位置

「――誰が本当の敵で、誰が本当の味方かを知ることは、カオルさまにとって…一つの要でしょう」
皇妃という立場は関係なく、と付け足した。

本当の…敵。

「思わぬところに敵はいるもの…。それを早期に見つけることができれば、大事には至らないでしょう」
思わぬところに敵はいるもの。そう言ったときのフレアは、どこか少し不気味で、怖かった。

ですが、とフレアは続ける。

「目に映る世界は、想定以上に偽りとまやかしで溢れています。その裏側を覗いたとき、そこにあるのは…自らが望むものばかりとは限りません。横たわる事実の非情さに、絶望することもあるでしょう。その拍子に、手もとのティーカップを落としてしまうことも」

…なにが言いたいのか、わかる気がする。

「…要するに、知ろうとするにはそれなりの覚悟が必要…ってことね」

覚悟を持てって言われたのは、これで二回目。

フレアは、なにも言わずただ微笑んだ。

「ありがとう。参考になった」
カオルは先ほどとはうってかわって、すっきりした表情だった。

フレアは、すっと立ち上がる。一礼して扉へ向かうと、振り向いてもう一度一礼した。

「では、失礼します」
ガチャン、と扉が閉まる。


少しして、再び扉が開いた。

「おかえり」
カオルが、入ってきた人物に言った。

「ん…ただいま」
アルバートが堅い表情で言った。

「…遅い!なるべく早く戻るって言ったのに!」

「うん…ごめん」

「…なんてね!」
カオルがおどけて笑った。だが、アルバートは無言だ。

「アルバート…?」

「……ん?」

なーんかぼんやりしてる。

「…どうしたの?」

「いや…」

「なに?」

「ちょっと、ね。考え事」

「ふうん…?」
カオルは首を傾げる。ここまで考え込むアルバートを、今まで見たことがあっただろうか。

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