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アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

「ってて……」
男が頬を押さえる。カオルは警戒しつつ、鋭い目を向け続けている。

「思ったより楽しめたよ。肌もやわらかかったし――」

バシン。

再び、カオルがビンタを食らわせていた。

「皇妃さまの感度もいいみたいで――」

バシン。

「本当のこ――」バシン。「ちょ――」バシン。

バシン。バシン。


「ちょっと待った!!」
男が叫んだ。

普通であれば触れるのさえためらわれるほど整った男の顔に、カオルは容赦なく、続けざまにビンタを叩き込んでいた。それも、手加減なしのマジビンタだ。

男の左頬は赤くなっていた。それでも、いつでも強烈平手を打ち込めるように、カオルは未だ構えている。


「さすがに痛い」
頬をさすりながら言う。カオルは無言だった。

「まあ、皇妃さまのご機嫌も損ねちゃったし、今日はこのくらいにしておこうか。身体の方は名残惜しいだろうけど」

「もう二度と近づかないで」
敵意むき出しのカオルが言った。そんな様子にも、男が臆することはない。

「“またね”、皇妃さま」
男は優雅に背を向け、頬を押さえながら出ていった。カオルはその背中が見えなくなるまで、突き刺すような視線を送り続けた。

最悪!下はアルバートにもさわられたことなかったのに…。

直接触れられたわけではないのが救いだ。念入りに洗おう、と決めると、カオルは下着を脱ぎ、浴場へずかずかと入っていった。





入浴を済ませ、更衣室を出る。かなりの間ここにいた気がする。実際、ここにきてから結構な時間が経っていた。

自室へ向かう途中、一階廊下を歩いていると、ちょうどエマが渡り廊下から出てきた。カオルは近づき、声をかける。

「カオルさま」
カオルに気づいたエマは、少し慌てたように見えた。

「お湯はみですか?」

なんだか視界をふさぐように立っている…。カオルはなんとなく怪訝に思い、「うん」と答えながら首を伸ばしてエマの後ろを覗こうとするが、それとなくエマが邪魔をする。

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