テキストサイズ

アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

「…なんで隠すの?」

「いえ、隠してなど」
そう言うエマの顔はわずかにひきつっている。

…あやしい。

カオルはいっそう気になり、向こう側を見ようと首を動かしたり、ぴょんぴょん跳んでみる。エマもそれを防ごうと、もはや必死だ。諦めかけたとき、女性の服装が一部、チラリと見えた。

高貴な女性のものではない。あの服装をカオルは知っている。何しろ、目の前に立つ女性が着ているものと同じなのだから。

あれは…。

あの女性は、恐らく――フレアだった。

「…わかった。おとなしく帰る」
カオルはとっさに、見えなかったフリをした。なぜそうしたのかは、自分でもわからなかった。

「それがよろしいかと」
ホッとした表情でエマが言う。カオルはそのまま、くるりと向きを変え、自室へと向かった。





部屋へ戻ると、アルバートはいなかった。いつもは夕食の前に入浴を済ませるのだが、カオルがサウナにハマってからは、入浴時間が長くなったため夕食と前後するようになっていた。

「あれ?どこに行ったんだろ」
まだお風呂なのかな、とソファーへ腰を降ろした。ふう、と火照った身体を落ち着かせる。

そういえば、ここでアルバートと…。

優しく包むアルバートの身体。体温。吐息。指先。
アルバートに触れられるのは、気持ちよかったし、心地よかった。

と、先ほどのことをふと思い出す。あの男は誰だったのだろう。なぜ、あんなことをしたのだろう。言動を思い出す度、腹が立ってくる。…だが。

なんだか…少しだけ。…少しだけ、アルバートに似てた。

具体的にどこがと聞かれれば、答えるのが難しいのだが…雰囲気、としか今のカオルには言えない。

だって、よく思い出してみても、似てるところなんてそれ以外には挙げられない。むしろアルバートと違うところばかり思いつく。

男のテクニック、あの手つきは…手慣れた様子だった。かなり女慣れしているのではなかろうか。今も、あの男の感触が、身体のあちこちに残っている…。

「だめだめ!なに思い出してんの!!」

もう寝よ寝よ!!

カオルは振り払うように立ち上がると、ベッドの中に潜った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ