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アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

カオルが眠りについた頃、扉が静かに開いた。真っ暗な部屋の中へ、アルバートが音をたてずに入ってきた。

ベッドへ近づき、すやすやと眠るカオルの姿を無言で見下ろす。頬に手を伸ばすが、触れずに戻した。やがて反対側へ回ると、ベッドに入った。





翌朝、カオルが目を覚ますと、隣にアルバートはいなかった。今ではベッドを共にするのが当たり前だったが、昨日はどうだったのか、カオルにはわからない。それどころか、アルバートが帰ってきていたのかどうかさえカオルは知らなかった。

辺りを探してみるが、姿はどこにもない。仕方なく、皇帝・皇妃専用の食堂へカオル一人で向かった。


食事を終え、暫くテーブルに座ったままぼーっとしていると、カーラが食器を片づけにきた。

「あ、カーラ。アルバートが今どうしてるか知らない?もう朝ごはんは食べたよね?」
カーラはあくまでも自分の付き人であり、アルバートの世話をしているのはまた別の者だということはカオルも知っていたが、一応聞いてみる。

「ええ、食事は済まされたようですよ。この時間でしたら、公務をなさっているのではないでしょうか?」

「そっか、そうかもね。ありがと」

「失礼します」
カオルの食器を下げ、カーラが出ていった。片づいたテーブルに肘をつき、ため息をつく。

「…仕事なら仕方ないかぁ」

アルバートはあれから、皇帝としての仕事をかなり精力的に行っていた。他国から攻撃を受けるという国の危機に、積極的に防衛の音頭をとっている。また、これまで臣下に押しつけていた業務にも、熱心に取り組むようになっていた。

だがその反面、カオルと過ごす時間は減っていた。そうなるようにしたのはカオルだが、自分の気持ちを自覚したカオルとしては少し複雑だった。

…ちょっとそばにいられないだけでこんなに寂しいなんて。

カオルはもう一度大きくため息をつくと、食堂を出ていった。

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