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アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

所在なく図書室で適当な本を読み、昼食まで時間を潰す。不思議なことに、この世界の特殊な文字も、カオルは特に習わずともすんなり読めていた。まるで、昔から知っていたかのように。

昼食を取り、自室でヴェキを待つ。暫く待っていると、いつものようにヴェキがやってきて、授業が始まった。

皇室のしきたりや皇妃のあるべき姿、所作を繰り返し学び、臣下の名前や役職を学ぶ。役職ごとに席順も決まっており、カオルは前回出席した会議や謁見の間での顔合わせを思い出し、照らし合わせながらなんとか重臣だけでも覚えようと奮闘する。

「右大臣がルーウィン・ダイナス、左大臣が…が…ガ…」

右大臣は屋外でも一度会っており、何度か名前も耳にしたので顔と名前はなんとか一致している。ただ左大臣は、顔と口調は思い出せるのだが、名前が未だに覚えられなかった。

「ガリオス・ハインド殿です」

「あ~」
ああそうだ、とカオルはうなだれる。先ほどからこの調子で、右大臣以外ちっとも覚えられる気がしない。

「今日はこのくらいにしましょう」
本を閉じて言った。ヴェキにしては珍しい。いつもスパルタなのだが。

「…え?もう終わりですか?」

「もっとやりたいですか?」

「い、いえ…」

「ではここまでで」
そう言い、書物やノートをしまい始める。カオルはその様子をじっと見ていた。

「ヴェキさん」

「はい?」

「アルバートは今なにしてるの?」

「公務をなさってます」

「…ずっと?」

「本来皇帝のやるべきことはたくさんありますから。むしろ今までが異常でした」

今までは、いつも遊びほうけてるバカでヘンテコな皇帝を演じてたんだよね。

「…そっか。そうですよね」
深いため息をつく。なんだか今日はため息ばかりだ。

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