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アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

「寂しいですか?」
ヴェキが問う。図星だったカオルはどきりとした。以前なら強がった返答をしていただろう。

「…寂しい、です」
今のカオルは自分の気持ちを認めることができている。

「…おや、えらく素直ですね」
ふ、とヴェキは笑みを浮かべた。茶化すような、いたずらっぽい顔。生真面目なイメージばかりだったが…こんな顔もするんだ、とカオルは思った。

「直接言って差し上げたら、喜ばれるのではありませんか」

そうかもしれない。私だって言いたい。でも仕事なら仕方ないし…特に今は、皇帝がしっかりしてなきゃ、みんなが危なくなる。アルバートだってそう思ったからこそ、頑張ってるんだ。

せっかく皇帝らしくなってみんなの信頼を取り戻してきたのに、邪魔したくないよ。

そんな言葉を押し込めて、そうですね、とカオルは言った。

「ではまた」
立ち上がり、ヴェキは出ていった。





あの男を警戒して、今日は以前のように皇帝・皇妃専用の浴室で入浴を済ませたあと、カオルはアルバートを待っていた。一緒に夕食をとるためだ。

だが、仕事が長引いているのか、中々アルバートが戻ってくる様子はない。

「…遅いなぁ、アルバート」

夕食は絶対一緒に食べるんだ。

暫くしてもアルバートは現れないので、カオルは待ちきれず部屋を出た。皇帝の間へ向かうが、その途中にもアルバートの姿はない。誰かが歩いてくる様子もないため、アルバートがどこにいるのか尋ねようもない。

そして、とうとう皇帝の間の前までたどり着いてしまった。ギィ、と少し重い扉が音をたて、開いた隙間からそっと中をのぞく。

だが…中には誰もいなかった。

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