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アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

…終わってるみたい。

「じゃあどこにいるんだろ」
カオルは引き返し、宮殿をうろうろする。と、気づけば、一階の渡り廊下前へ来ていた。この先は、多くが中堅臣下の住居だ。

「さすがにこんなところにはいないか…」
カオルが背を向けたとき。


「あれ、カオル?」
アルバートが渡り廊下の奥から歩いてきた。カオルが振り向くと、アルバートが笑顔を向けた。

「迎えにきてくれたの?」

「…うん。お疲れさま」

「ご飯食べた?」

「まだだよ」

「ごめんね、待たせちゃって」

「ううん」

「じゃあ、行こうか」

二人は、いつものように専用の食堂へと向かった。


食事中、アルバートはしきりにカオルに話しかけた。カオルも、はじめは笑って答えていたし、二人ともとても楽しく会話をしていた。だが、カオルは気づいてしまった。

なんだか今日のアルバートは…笑顔が多い。

よくよく見ていると、その笑顔が心からのものではないとわかる。どこか無理をした笑みだった。

気をつかってくれているのだということは、カオルもわかっていた。だからこそ、わざわざ指摘したりはせず、気づかないふりをしていた。


「アルバート、最近仕事大変そうだね」

「そうでもないよ」

「無理…しないでね」
労りの言葉をかける。

これ以上は…だめ。寂しい気持ちを漏らしては、だめだ。

「うん。ありがとう」
アルバートはまた、笑みを見せた。


食事を終えると、アルバートは、まだ仕事が残っている、とまたどこかへ出ていった。

カオルはまた、一人ベッドで眠りについた。

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