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アルカナの抄 時の掟

第1章 「運命の輪」正位置

幸運にも、鞄はしっかりと持っていた。まったく見知らぬ土地に放り出されたとき、鞄ひとつあるだけで、なんとなく安心できるものだ。

「この世界のことはよく知ってるから、案内するよ。おいで」
青年は、座り込んだままの私に手を差し伸べる。
手をとると、宮殿とは逆の方向へ歩き始めた。

宮殿周辺は民家が多いが、こちらの方は奥に行くほど少なくなっていく。

「どこに行くの?」

「ん~」
青年は私の手を引き、歩いていく。気のせいか、歩調が早いような。

「あと、なんか…さっきからすごい見られてる気がするんだけど」

「君の服装が珍しいからかもしれないね」

言われて、自分の姿を見る。学校へ向かう途中だったので、上から下まで制服だ。確かに、青年の姿から考えると、この世界ではこのような服装は珍しいようだ。だが。

「私よりも、あなたのその怪しい格好が目立ってるんじゃないの?」
私は青年の帽子を見て言った。

ここへ来るまでに何人かこの世界の人を見かけたが、青年のように古代中国のような服装の人が多かった。だが、頭部を布で覆うという格好はやはりここでも珍しいのか、どうも視線を集めている。

「怪しくないよ~」

「みんなあなたの方を見てない?」

「うーん…?そうかなぁ」

本当についていって大丈夫なんだろうか。…今のところ、この人に頼るしかないんだけど。

「そういえばさ。君、なんて名前?」

そういえば名前言ってなかった。名前わからないと呼びづらいよね。

「柊薫」

「ヒイラギカオル。君の親しい人は、君のことなんて呼ぶの?」

「薫、かな」

「カオル。じゃあ僕もそう呼ぶよ」

「あなたは?」

「アルバートだよ。アルとかアルバとか略してもいいよ」

「アルバートね。わかった」

「略してもいいよ」

「今アルバートの家に向かってるの?どんなところ?」

「略してもいいのにぃ」

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