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アルカナの抄 時の掟

第6章 「月」正位置

翌朝も、カオルが目を覚ますとアルバートはいなかった。カオルは今日も一人で食堂へ向かう。辺りはすっかり明るくなっていたが、カオルの心は暗いままだった。

図書館で時間を潰し、昼食を済ませる。そして今、ヴェキの講座が終わった。と、カオルはなんとなくヴェキとお茶してみたくなった。

「ね、ヴェキさん」

「はい?」

「このあと…時間ありますか?」

「ええ、少しなら」

「じゃあ、お茶しませんか」

「かまいませんが…私などとしても楽しくないと思いますよ」
カオルからの誘いに、少し驚いた様子でヴェキが答えた。

「いろんな人とお茶したいんです。…あ、二階のバルコニーでいいですか?」

「ここでかまいませんよ」

「じゃあここで」
カオルにんまりとすると、お茶の用意を始めた。初めは侍女に入れてもらっていたのが、今では随分手慣れたものだ。

「あなたのお茶を頂く日が来ようとは」

お茶の作法や入れ方を教えたヴェキは、その時のことを思い出していた。当初のカオルのお茶の手さばきと言えば、まったく散々なものだった。

手順を間違えるわ、温度調節がめちゃくちゃだわ、他にも、教わったものがあやふやだったり間違えて余計焦ったりで、舌の肥えたヴェキにはとても飲めたものではなかった。

上達を手伝わせた侍女たちには、礼を言わなければなりませんね…。

ヴェキは、てきぱきと用意するカオルの様子を見ながらそう思った。

「はい、どうぞ~」
カオルがカップを置く。その隣には、茶菓子も用意していた。

「いただきます」
ヴェキが静かにカップに口をつけた。カオルはそれをじっと見ている。

「おいしいですよ」
ふ、と微笑む。カオルもなんだかほっとして口もとを緩めた。

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