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アルカナの抄 時の掟

第7章 「恋人」逆位置

「じゃあ犯罪じゃないね。合意してたし」

「いや、してないけど!」

「身体は俺を受け入れてた」
そう言い、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

…あったま痛くなってきた。

「もういい。とにかく近づかないで。また現れたら今度は殴るから」
カオルは拳を作り、すごむと、そのまま男を避けてスタスタと歩いていった。

「…またね」
カオルの後ろ姿に、男はクス、と笑った。




その日の夜、もう何日目だろうか、会えないとわかっていながらもカオルはまたアルバートを迎えにいっていた。いつものことだが、自室に戻ってきていないのに、皇帝の間にもいないのだ。

…今日は、なんだか会える気がする。

カオルは足早に皇帝の間へ向かう。と、扉が少し開いている。手をかけたとき、突然肩に手を置かれた。

「!!」
なにか一瞬聞こえた気がしたが、カオルは振り向きざまに、素早く平手を打ち込んだ。…いや、正確には、打ち込もうとした。

「…ご挨拶ですね」
カオルの手首をつかんだヴェキが言った。

「!…ヴェキさん」

「素人にしてはかなり俊敏な反応ですが、まだまだ私には勝てませんね。…で、私になにか恨みでも?」

「ごっごめんなさい!人違いしました」

「冗談ですよ。皇妃はそれくらい警戒していてちょうどいいくらいです」

「本当にごめんなさい。…アルバート、もう仕事終わりましたかね?」
そう言ってもう一度扉に手をかけたとき。

「皇妃、陛下ならこちらでなく向こうの方で見かけた気がします」
ヴェキが、玄関ホールの方を指差して言った。

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