アルカナの抄 時の掟
第7章 「恋人」逆位置
「右大臣の娘――フレアだよ」
扉の外のカオルが、息をのんだ。
実はあのあと、カオルはいったんヴェキの離れに向かったものの、やはり気になってしまい、本殿へ引き返していた。ここへ来たときにはすでに話が始まっていたので、入るに入れず、扉の近くで静かに聞いていたのだ。
ガクリ、と膝が崩れる。今までゆっくりと築いてきたなにかが、壊れていく。そんな音が聞こえた気がした。
茫然自失したカオルは、ふらふらとその場から立ち去った。
一方ヴェキは、やはり彼女か、と思っていた。カオルの侍女でもある彼女が右大臣の娘だということは、実はヴェキもわりと最近に知っており、別段驚きはしなかった。彼女をめとると決めたことにも、疑問に思わなかった。
少し引っ掛かるとすれば、“そのことだけを”アルバートが自分に話していなかったことに対してだ。彼女を妃に、というのは完全にアルバートの独断だった。
重臣たち、特に左大臣派は、いきり立っていた。右大臣とフレアの関係さえ、たった今知ったのだ。皇帝の外戚となれば、発言権は大きくなる。右大臣の娘をめとるということは、右大臣の権力拡大を皇帝自身が許すということだ。
すなわち、それは、今まで左大臣派と右大臣派のどちらにも傾かず、平等に両者を扱ってきた皇帝が、今後完全に右大臣派と結ぶことを意味していた。彼らはしばらく文句を言っていたが、それを断ち切るように、アルバートが解散にしてしまった。
扉の外のカオルが、息をのんだ。
実はあのあと、カオルはいったんヴェキの離れに向かったものの、やはり気になってしまい、本殿へ引き返していた。ここへ来たときにはすでに話が始まっていたので、入るに入れず、扉の近くで静かに聞いていたのだ。
ガクリ、と膝が崩れる。今までゆっくりと築いてきたなにかが、壊れていく。そんな音が聞こえた気がした。
茫然自失したカオルは、ふらふらとその場から立ち去った。
一方ヴェキは、やはり彼女か、と思っていた。カオルの侍女でもある彼女が右大臣の娘だということは、実はヴェキもわりと最近に知っており、別段驚きはしなかった。彼女をめとると決めたことにも、疑問に思わなかった。
少し引っ掛かるとすれば、“そのことだけを”アルバートが自分に話していなかったことに対してだ。彼女を妃に、というのは完全にアルバートの独断だった。
重臣たち、特に左大臣派は、いきり立っていた。右大臣とフレアの関係さえ、たった今知ったのだ。皇帝の外戚となれば、発言権は大きくなる。右大臣の娘をめとるということは、右大臣の権力拡大を皇帝自身が許すということだ。
すなわち、それは、今まで左大臣派と右大臣派のどちらにも傾かず、平等に両者を扱ってきた皇帝が、今後完全に右大臣派と結ぶことを意味していた。彼らはしばらく文句を言っていたが、それを断ち切るように、アルバートが解散にしてしまった。