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sex? or die?

第5章 Sector 5 Moon

ベージュ色のすこしつるつるした素材のカーテンを少しだけめくって、
窓越しに見る見慣れた待ちの景色に目を向けるとそこはいつも通りの町並みなんだけど、
薄墨をぐるぐるかき混ぜたみたいな雲に巻かれる月明かりのせいか、
同じ景色のはずなのに、何かが違う、少しで過不安な色が混ざっている気がした。

窓を開ける。

この季節にしては暖かい室温より、
だいぶ冷たい風がふっとわたしの髪を撫で、
耳の裏っかわをくすぐった時、
唐突にわたしはあの人の唇が同じ場所をたどってた時の感触を思い出してしまった。

あの人は遠慮がちにベッドの上でわたしのカラダを後ろから抱きしめながら、
わたしの首筋にアゴを乗せてわたしの耳の裏にキスをしてた。

そっか、あれがあの人の最初のキスだ。

ゆっくりと目に見えるくらいのスピードで流れる、
窓の外の世界の風を感じながら、わたしははじめてそんなことに気がついたり。

いろんな意味でちょっとぞくっとしちゃって、びっくりして慌てて窓を閉めた。こんな時間だから窓を開けても外の音がするわけじゃ無かったんだけど、窓を閉めて部屋を密閉すると、そこにある安全で沈黙の世界が、わたしの中で違和感として感じられる。

確かに、ここにいる限り何も危険はない。

わたしを脅かすものはここにはない。でもそれだけ。わたしを奪おうとする凶暴な想いを垣間見てしまったから、安全な場所になぜか違和感が漂う。

女は、自分を奪いにくる何かをずっと待っていて、男は奪うものをずっと探しているのかも。

退屈、とか、マンネリ、とか、そう言うのじゃない。

多分本能だと思う。本能というのは、いきものとして、どう生きるかっていう能力。

より強い子孫を残し、種として生き残る。

そのための遺伝子に刻まれた何かが、
わたしの感情をコントロールしているような気がするの。

当たり前に考えればあなたの子供がほしいわけないのに、
でも本能はあなたの種を求めているのかもしれないね。
実際にそうなったら、
ものすごい困るんだけど。

そんなことを考えながら、もう一度カーテンをめくって、外の景色を見る。

薄墨色と、
どろっとした真っ黒な闇が、
半分雲に隠れた月を中心にぐるぐる回ってた。

じっと見ていると軽く立ちくらみしそうなほど。

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