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対峙

第4章 episode 3

孤児院に入る曲がり角を差し掛かった時だった。
何かボソボソと話し声がする。
なぜだか見つかってはいけない気がしてコソコソと慎重に孤児院の門をくぐる。
話し声は中庭の方から聞こえてくるようだった。
後ろ姿は澤村と…もう一人は光彦?
澤村の陰になって良くは見えないが、立ち姿と声の調子から光彦で間違いなさそうだった。

『…恨んでいるのか』

澤村の口から予想出来ない言葉が聞こえた。

『どの口がそんなこと言ってるの?自分が恨まれてない、好かれてるとでも思ってる?』

顔さえ見えなかったが、いつもの光彦の声音とは違い、だいぶ低く、そして自嘲的に聞こえる。

『償ってる最中…赦して欲しいとは思ってない』

『償う相手が違うでしょ?…変な真似したら誠二に全部話すから』

全部?ボクの知らない何かを光彦は知っている?…今朝のこともあってか、光彦に対する不信感が募る。

『誠二は関係ないだろ』

『父親面すんな。誠二のことは俺が一番理解してる』

澤村が大きくため息をつく。
2人は一体何の話をしているんだ?
ボクは飛び出したい気持ちを抑え、木陰でただ息をひそめて2人を見つめることしかできなかった。

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