対峙
第6章 episode 5
゙父さん゙
光彦の言葉に、澤村ではなくボクが息を飲んだ。
澤村の表情は固く張り詰めたままだった。
「なんで父さんを呼び出したかわかるよね」
「…誠二か」
澤村は警戒を解かない。
ボクの名前…やっぱりあの事件に澤村は関係してる?
「…父さんは俺をキライ?邪魔だと思ってる?」
光彦の声音が変わった気がした。
痛みをはらんでいるようだった。
光彦は澤村に近づく。
反射的に数歩下がる澤村の両手を自らの首に触れさせた。
゛光彦…なにを…゛
ボクは飛び出したい衝動に駆られた。
澤村は動こうとしない。
「父さん…ころして…俺が邪魔ならころしてよ」
憂いを帯びて、それでいて嬉しそうな光彦を初めて見た。
「…光彦」
澤村の両手が動いた…気がした。
ボクは衝動的にその場を飛び出してしまった。右手に握る冷たい感覚は気持ち悪いくらいだった。
「光彦ぉっ」
澤村と光彦がこちらをみる。
澤村の愕然とした顔とは対象に光彦は薄ら笑いを浮かべていた。
ボクの一振りは澤村の頬と肩をかすめ、きれいな朱色の線を描いた。
「誠二!?…なにをっ」
澤村は怯む。
もう澤村のことはボクには見えていなかった。
コイツは光彦を苦しめた張本人だ。…光彦を助けなきゃ。
「ぅわあぁぁっ」
ボクは無防備になった澤村の腹部めがけてカッターナイフを差し込む。
ずっしりとした感覚が両手に伝わった。
「っ…誠、二…なんで…」
一気に引き抜けば生々しい音を立てる。
澤村はその場に崩れ落ちた。
心なしかボクは冷静さを取り戻しつつあった。
後ろから光彦がボクの頭をくしゃくしゃに撫でる。
そしてこう言いはなったのだ。
「父さん…俺の勝ちだね」