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対峙

第7章 episode -



゙せいじはただ台所からほうちょうを持ってきてくれればいい゙

最初は何を言っているのかわからなかった。
でも家までの短い道のりでなんとなぐああ、そういうことなんだ゙と理解した。
怖いくらい冷静に理解できた。
父親がいなくなるんだ。
そう思っただけでわくわくしてきた。
その過程のことなんて深く考えもしないで。

「…お父さんいなくてもいい?」

「うん」

光彦の問いに迷いなく答えた。
いらないから。
ボクを打つお父さんなんていらない。

玄関の前に着いて一呼吸おく。

「じゃあ…いくよ?」

「うん」

ボクは恐る恐るドアを開ける。
父親に気づかれないように。
それはもう習慣のようなものだった。

「…ただいま」

蚊の鳴くようなかすれきった声で呟く。
奥の居間で母親がこちらに気づいたようだった。

もう後戻りはできないんだ。
ボクは覚悟を決めて一歩玄関へ踏み込んだ。

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