偽装結婚~代理花嫁の恋~
第6章 ★Sadness~哀しみ~★
とにかく、母の血圧が安定したのなら、由梨亜には何も言うことはなかった。母の状態も落ち着いているようなので、その日は三〇分ほどいただけで帰った。
昨日の今日で疲れていたので、駅地下の惣菜屋でできあいの惣菜―メンチカツと野菜サラダを買い求めてマンションに戻った。
帰ってから目玉焼きを作り、買ってきた惣菜と目玉焼きを綺麗にプレートに盛りつけた。
午後八時になっても、三鷹はまだ帰らない。いつもなら七時にはちゃんと帰ってくるのに。
何かあったのだろうか。事故? 急な病気とか?
俄に不安で堪らなくなり、ふいに愕然とした。自分は三鷹の妻ではない。ただ便宜上、契約した偽装結婚上の〝妻〟であるだけ。そんな自分が本当の妻のように彼の帰りを待ちわび、少しの帰宅の遅れにも心を波立たせるのは、おかしいのではないか。
自分には三鷹の安否を気遣う資格もないのだ。そう思うと、堪らなく辛かった。
更に時間は過ぎ、午前零時を回った。流石にこれはもうただ事ではないと思い、携帯電話を手にした。しかし、いざ電話をしようにも、三鷹の会社の電話番号が判らない。
そういえば、三鷹は由梨亜を〝奥さん〟と呼び、好きだと熱っぽく言いながらも、携帯電話の番号すら教えてはくれていない。その事実に改めて気づき、由梨亜は涙が零れそうになった。
彼にとって所詮、自分はその程度の存在にすぎないのだと無言の中に突きつけられているようだ。
そのときだった。インターフォンがけたたましく鳴り、由梨亜は弾かれたように駆け出していた。すぐにチェーンを外して内側からドアを開けると、案の定、三鷹が立っていた。
「ただ今~、可愛い俺の奥さん」
言い終わらない中に、三鷹の身体がグラリと揺れ、由梨亜の上に倒れ込んできた。
「三鷹さん? どうしたの、大丈夫?」
矢継ぎ早に訊いても、三鷹はただ低い声で笑っているだけだ。ふいに彼から饐えたような匂いが漂ってきて、由梨亜は顔をしかめた。
「三鷹さん、酔ってるのね?」
「ああ、酔ってるよ、凄ーく酔ってるよ」
「とにかく、中に入りましょう」
昨日の今日で疲れていたので、駅地下の惣菜屋でできあいの惣菜―メンチカツと野菜サラダを買い求めてマンションに戻った。
帰ってから目玉焼きを作り、買ってきた惣菜と目玉焼きを綺麗にプレートに盛りつけた。
午後八時になっても、三鷹はまだ帰らない。いつもなら七時にはちゃんと帰ってくるのに。
何かあったのだろうか。事故? 急な病気とか?
俄に不安で堪らなくなり、ふいに愕然とした。自分は三鷹の妻ではない。ただ便宜上、契約した偽装結婚上の〝妻〟であるだけ。そんな自分が本当の妻のように彼の帰りを待ちわび、少しの帰宅の遅れにも心を波立たせるのは、おかしいのではないか。
自分には三鷹の安否を気遣う資格もないのだ。そう思うと、堪らなく辛かった。
更に時間は過ぎ、午前零時を回った。流石にこれはもうただ事ではないと思い、携帯電話を手にした。しかし、いざ電話をしようにも、三鷹の会社の電話番号が判らない。
そういえば、三鷹は由梨亜を〝奥さん〟と呼び、好きだと熱っぽく言いながらも、携帯電話の番号すら教えてはくれていない。その事実に改めて気づき、由梨亜は涙が零れそうになった。
彼にとって所詮、自分はその程度の存在にすぎないのだと無言の中に突きつけられているようだ。
そのときだった。インターフォンがけたたましく鳴り、由梨亜は弾かれたように駆け出していた。すぐにチェーンを外して内側からドアを開けると、案の定、三鷹が立っていた。
「ただ今~、可愛い俺の奥さん」
言い終わらない中に、三鷹の身体がグラリと揺れ、由梨亜の上に倒れ込んできた。
「三鷹さん? どうしたの、大丈夫?」
矢継ぎ早に訊いても、三鷹はただ低い声で笑っているだけだ。ふいに彼から饐えたような匂いが漂ってきて、由梨亜は顔をしかめた。
「三鷹さん、酔ってるのね?」
「ああ、酔ってるよ、凄ーく酔ってるよ」
「とにかく、中に入りましょう」